「黒子っちー、テーブルあいてるー?」
炒めた野菜をフライパンから皿に移しながら、ちらりとリビングを見て声をかける。「あ、はい」しばらくがさがさと紙類を束ねる音がしてから、黒子っちの声が返ってきた。
「今あけました」
「ありがとっス!できたから運ぶね」
フライパンと菜箸を適当にシンクに放り込む。ポークソテーに野菜炒めを添えただけの簡単なものと、日頃から作りおいてある漬物や煮物の類をお盆に乗せてキッチンを出た。
「お待たせしました〜」
「いい匂いですね。いつもありがとうございます」
「あんまり手のこんだもんじゃないんスけど、黒子っちの口に合えば嬉しいっス」
片膝を立てた中腰の状態で皿をテーブルに並べだす。黒子っちも横からそれを手伝ってくれて、なんかすごく夫婦みたい!とオレは勝手に盛り上がる。黒子っちの落ち着きとか手際のよさとか、オレの旦那さまはいいところばかりだとしみじみ思った。
「あれ、涼太くん…そのエプロンって、」
「あ、気づいたっスか?」
不意に黒子っちがオレの服装を眺め見て、オレはここぞとばかりに立ち上がって回ってみせた。モデル業で培った魅せ度ナンバーワンの回転力である(ばい、黄瀬涼太)。
「黒子っちが誕生日にくれたエプロンっス!どう、似合う?」
「すごく似合います。可愛いですよ、涼太くん」
「えっへへー」
まあ当然っスね、黒子っちがくれたものなんだから!いいながら抱きつけば、オレよりもちいさいはずの広い懐がオレを迎えてくれる。ぎゅうっと抱きしめてすりよって、空色の髪に鼻先でなついてみる。「しょうがないですね、涼太くんは」あきれたみたいに笑いながら、黒子っちがオレの髪を撫でてくれる。
「オレ、昨日よりももっともっーと黒子っちが好きになったっス!!」
「ボクも、一瞬前より今の方が、涼太くんのことが大好きです」
ねだったわけじゃなくて自然に触れ合った熱と熱、いっそのこと空とひとつになれたらいいのに、なんて。
「じゃあ、いただきます」
「どーぞ召し上がれ!」
向い合わせの食卓に、オレが思ったのはそんなことだった。
日々に
(ってことがあったんスよ!)
(…それで何故俺なのだよ)
(えっとー、緑間っちにも幸せのお裾分け?みたいな?)
(そんなものいらん!)