「…あ」

「んあ?どしたんスか、火神っち」


火神っちの部屋、ベッドの上。ふたりして寝転がりながら雑誌をめくっていたら、火神っちが不意に読んでいたページを指してオレを呼んだ。とん、とたたかれたそこをのぞけば、そこには薄っぺらな表情でボールを抱えるオレの姿があって。


「ああ。これ、帝光のときのユニフォームっスね」

「なんでお前だけなんだ?」

「チームの取材じゃなくてモデルの仕事だから」


淡々と答える。火神っち早くページめくらないかな、「ふうん」呟いた横顔にただそう思った。


「――なあ」

「…なあに、火神っち」

「なんでお前、こんな変な顔してんだよ」


赤みがかった火神っちの瞳がオレを見る。いつもみたいにまるくて柔らかなそれじゃなく、強くて怖い視線だった。びく、一瞬自分の肩が揺れるのを感じて。


「…言いたくない」

「言えよ」

「言ったら火神っち、絶対オレのことばかだっていうよ」

「そう思ったら言うだろ、いつも」

「だから言いたくない」

「――…涼太」


す、と目が細くなる。火神っちが怒るのが怖いってみんなは言うけれど、オレには火神っちに軽蔑されることの方がずっと怖かった。だって火神っちはまっすぐだから。オレと違って。


「…大我はずるいよ」

「お前がばかなんだろ」

「ほら、すぐそういうこというし」

「うるせえって」


顔を歪めて火神っちの名前を呼んだら、肩を引き寄せられてついでといわんばかりに押し倒された。下から見上げる火神っちはとても、綺麗だった。


「お前はいっつもアホ面してりゃいいんだよ」

「…あほづらって」

「変な顔すんな。ムカつく」


近づけられた顔に反射で目を閉じて、どうしようもない不安に腕を上げて抱きついた。触れて離れて、深くなっていく交わりに涙が出そうになる。


「…っは、ん…ぃ、が」

「ん、…なんだよ」

「オレ、っ、あの写真、」

「ああ」

「バスケが、つまんなくて…なんか、色々嫌になってるときで、…だから」


『バスケへの想い』――見せられたタイトルに心が抉られるような気持ちになった。黒子っちが部活に姿を見せなくなるようになって、オレはバスケに対してどうやっていけばいいのか分からなくなっていた。そんな時期。

オレがバスケに向けられた想いは、ただ薄っぺらなだけのゴミみたいな気持ちだけだった。


「…大我には、見てほしくなかった」

「……お前な」

「…たいが?」

「オレは別に、過去のことまで聞きだそうとは思わねえ。言いたくないこととかあるなら、それでも構わねえ。――けど」


火神っちの腕の長さ分だけ距離があく。どんな顔をするだろうと見ていたら、油断していた額にぱちん、でこぴんをくらった。「い、って!」思わず両手の甲で追撃から額を守ってしまう。


「付き合ってんだから、隠し事とかすんなよ」


特にそういう気持ちとかは。火神っちの表情が、オレには一瞬分からなかった。ただその声が優しかったのと、反芻した言葉の意味でまたじんわりと視界がにじむ。


「お前がバスケが大好きなんだってことくらい、オレにだって分かんだからよ」


そんな単純なことでまたこのひとが好きになるオレは、やっぱりばかなのかもしれなかった。





いの向こう。
(お、おれ、大我もだいすきっすから…!)
(…分かったから泣き止めきたねえ)
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