だからそこで見守っていて


試合が終わった。洛山に敗れた秀徳の選手は、熱気を残す体育館の中で、ぽっかりと失われてしまった手を握りしめていた。ベンチや応援席に頭を下げる、その間もどこか空虚な胸の内をどうしていいかも分からないまま、ひっそりとコートに背を向ける。

その途中で、秀徳のスタメンのひとりである木村は、すれ違うようにして出てきた影を前にして立ち止まった。ゆっくりとした瞬きに悔しさの粒がこぼれ落ちる。そしてそれは、バッシュに染みて、消えていく。

「……木村」

気づいたように足を止めた、海常の監督である武内が、そっと木村の名前を呼ぶ。その音は、選手と監督という立場の差はあれども、ただひとつ、挑むものと敗れたものの間にひっそりとたゆたう、少しだけ歪な愛だった。

「……武内さん、オレ、まけました」
「……ああ」
「オレのバスケ、終わっちゃいました」
「……そうだな」

普段は嫌といっても木村にまとわりついてくる宮地は、今は大坪に支えられて涙をタオルにしみこませている。木村に気づけたのは高尾くらいなものだったが、その鷹の目も今は涙に暮れていた。言いたくても言えないことがあるような武内に、木村が意を決したように口を開く。

「この敗けは、オレの、オレたちのものです。オレたち秀徳の」
「ああ、」
「でも、勝利だってきっと、あったはずなんです」
「……木村」

木村が、堪えきれなかったように両目を腕で覆う。嗚咽まじりに叫ぶのは、もっと戦っていたかったということ、勝利したかったということ、このチームを愛していたということ。ざらざらとあふれる砂糖のような叫びは、涙に触れて海になる。伝うのは決して、かなしみだけではなかった。

「海常にとって、勝利が天命でありますよう」

大きく息をすって一息で言ってしまうと、木村は足早に他の部員たちを追って駆けていった。宮地と大坪に追いついて、その背中に思い切りしがみつく。小さくなっていく背中を見ながら、武内はほんの少し、少しだけ、秀徳の不撓不屈の文字を見た。

『――このチームに人事を尽くしていないものなどいない』

エースの言葉はいつだってチームを導く指針になる。そんなことを教えられたような、多分きっと、ずっと忘れられない試合になるだろうと武内は確信した。これから、自分の見守るチームが挑む試合も、きっと同じように。

振り向いた武内の脳内には、すでにたったひとつの未来しか描かれていなかった。同情と共感は違う。それでも託された何かに応えるために、武内は一歩、足を踏み出す。待ち望んだ再戦の場所へ。この熱狂全てを、鮮やかな青に染めるために。




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