あなたの隣にいたいのです


高尾和成は考える。ふたつ年上の恋人のこと、彼が今見ているもののこと、彼の好きな歌のこと、彼が好む色のこと。それから例えば彼が撃つシュートのこと、好きな女の子の話であったり、この間一緒に見た映画のことであったり。高尾はいつも、その脳を忙しく回転させている。

「和はなんでいっつも、そんな色々考えてんの?」
「なんででしょうね?」

向かい側に座った森山が眉間にしわを寄せて尋ねた言葉に、高尾も同じイントネーションでそう答える。森山は読んでいた雑誌の両端をくしゃりと握って、少しだけ上に視線を泳がせてから、はあ、とこれ見よがしにため息をついた。今度は高尾の眉間にしわが寄る。

「由孝サン、ため息は幸せが逃げるんですよ」
「オレから逃げた幸せは和が飲んでいいよ」
「へ!?」
「なんで和はそう頭で色々考えちゃうのかなー」

森山は一度、持っている雑誌にちらりと視線を投げる。そこにはかわいい女の子の写真がたくさん載っていて、彼女たちは可愛さという一点において、どこまでも自分を楽しませてくれるものだ。女の子は可愛い、可愛いものは好きだ、森山にとってはそれだけのことである。難しく考えることなど何もない。

それこそ例えば、この目の前で瞳を潤ませているふたつ年下の恋人のことだって、そう難しく考えるようなことでもないのだ。オレは和が好きで、大事にしていて、だからこそこうやって休日には家に呼んだりして、ああその泣きそうな顔も可愛いなと思いながら、やっぱり好きだと思う。森山にとっては、それだけの、ことなのである。

「オレは和が好きだよ」
「……オレも、由孝サンのこと、大好きです」
「だからさ、オレに捨てられちゃうとか、飽きられちゃうとか、そういうの心配して泣くのやめな」
「え」

一度驚いてそれきりだと油断していた高尾は、続いた森山の思いがけない言葉にかーっと体中を赤くした。あ、う、としどろもどろに繰り返す高尾を、森山は我慢できないとばかりにふきだして笑う。

「あっは……! 和、すんげー真っ赤!」
「ちょっ、も、もう、由孝サン!」
「オレはさー、そりゃ自他ともに認める女の子好きですけども」
「っ、う」
「でもさ、そんなオレがさ、和を選んだんだからさ。その気持ちは信じてほしいな」

手を伸ばしてぽんぽんと頭を撫でる。森山の手のひらが高尾の頭を包むと、重力に従うように高尾が俯いた。何度か確かめるようにして撫でる。ぱたりと落ちた涙はけれど一粒きりで、もう一度顔をあげたとき、高尾はもうすっかりと笑顔になっていた。

「やっぱ由孝サンにはかなわねーなー」
「だろーよ。たまには先輩面させろよ」
「いっつも尊敬してるじゃないですか!」

普段通りけらけらと笑いだした高尾を、なんとはなしに抱き寄せてみる。5センチしか違わない体が簡単に腕に落ちてきて、森山もつられたように笑いだす。そっちの方がお前らしいよと囁いた声にそういうとこ由孝サンらしいですと返す、ふたりの時間はまだまだこれからだ。


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