そんな風にして過ぎて行った翌日、ハニーの抗議音で叩き起こされた私はまたふらふらとした足取りで餌の袋を抱えて、ハニーが存在を主張する箱の中にざらざらと入れた。勢い余って噛まれたが今日はよしとしよう。休みの日だからって寝過ぎた。時計を見てみればもう9時過ぎだ。ハニーはさぞお腹が空いただろう。

 表の郵便受けに新聞を取りに行こうと思って、寝癖爆発な頭を撫でつけながら欠伸をする。今日も寒い。冬はいつになったら去りゆくのか。困ったちゃん変換したってときめかない。春の温もりが恋しかった。それはまるでスキージャンプの相方のように。抱いて抱いて抱きしめて。私も遠くに行きたい。チェーンを外して鍵を開けて、サンダルをつっかけて表に出る。ドアを閉めて思い切り伸びをする、ああ良い天気。素晴らしい日になりそう。こんな日は引きこもってお昼寝をするに限る。郵便受けから新聞を出して、いつもの流れで一面を見る。政治と経済と芸能。黄瀬涼太に熱愛発覚! あらあら大変。芸能人は恋をするのも一苦労なのね。そういえばこの文字列とても見覚えがある。ためつすがめつ新聞を眺めて、結局その記事が気になって読む。写真。流出。発覚。疑問。認める。宣言。あら存外に潔い。こっちがスカッとするくらい。どれどれお相手は……一般人。ほう。同じくらいの年の人。良いじゃない。性別。男。おとこ。…………おとこ?

「黄瀬涼太ってイケメンなのにホモなの……」
「えっ」
「え?」

 思わず声に出ていたらしい。しまったこんな単語外で言うもんじゃなかった。イケメンに彼氏がいたくらいで動揺してどうする。イケメンに彼氏がいるなら喪女に彼氏がいてもいいだなんて思ってないわ。思った。思いました。だからこんなことになる。ハニーに話しかけている癖で。朝っぱらから変な単語ぶっ放してすみません気にしないでください頭がちょっとアレなだけなんです、なんの言い訳にもならない言い訳をしようと新聞をどかしたその向こうに、

「……や、あの、すませんっス、聞くつもりはなかったんスけど……」

 私よりも気まずそうに視線をそらす、黄瀬涼太その人が、いた。ワォ。ちょっと待って今私ものすごく失礼なことを。いやそれよりも思い出して私、そういえばそうよ、昨日も見たじゃないどうしてそんな大事なこと忘れてたの。せっかくのイケメンとの出会い、これはワンチャンあるで! 勢い込んだその瞬間、手に持った記事と今しがた自分が呟いた言葉が稲妻のように降ってきた。そういやこいつホモじゃん。彼氏いるんじゃん。ワンチャンないじゃん。じゃあ仕方ないね。せめてものフォローはしておこう。

「おはようございます。良い天気ですね」

 なんのフォローだよ!! 案の定目の前の黄瀬涼太は「そうっスね。おはようございます」ときらめく笑顔で言って、忘れ物、と呟きながらせっかく出ようとしたその体をもう一度家の中に戻してドアを閉めた。ぱたん。多分今のは黄瀬涼太の心のドアの音だ。ぱたん。申し訳なさ過ぎて死にたい。






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