※モブ視点
※火黄は学生と俳優






 例えば今まで全く色気のない生活をしてきた人生があったとして、その中に突然イケメンが転がり込んで来たらどう思う? 転がり込むといっても別にカレシができたとかそれがイケメンだったとかそのイケメンの人間性が素晴らしかったとかそういう話では全くない。私は今もひとりである、咳をしてもひとり、転んでもひとり、そこから何も見えなくなるの星屑ロンリネス。ああごめんそういえばあなたがいたわハニー。私はひとりなんかじゃないわね。大丈夫私はあなたを置いて死んだりしない。
 そんな戯言をいつものように垂れ流しながら、空っぽになりそうだったペットボトルに何の変哲もない水道水をごぼごぼと満たす。それからふらふらと居間に戻って、大きめの小屋の横についているケースにぱちんとつけた。ただいまハニー。お耳の長い愛しのハニー。今日もむふむふ言っててかわいいわ。抱きしめ甲斐があるという理由だけで選んだフレミッシュジャイアントのハニー(4歳♂)は、今日もこうして私の話を聞いてくれる。話の途中で船を漕いだり寝言を頻発するのはあなたの悪い癖よハニー。

 この家に越してきたのは随分前で、そうよあなたも覚えてるでしょう、横殴りの雨が私の両頬に往復ビンタをかましてきたあの日だったわね。きっと何らかの恨みか呪いでも被っていたに違いないあの日に、私とあなたはこの部屋に来たってわけ。お世辞にも豪勢で素敵なお家!なんて言えなかったけど、両隣りは空いていて、自転車で行ける距離にスーパーとマツさん家のキヨがあって、2DKにしてはお安くて、どうして一人暮らしなのにふた部屋あるのかって? あなたがひと部屋占領するからよ今更よ。何を言ってるのあなた。船漕いでないでちゃんと聞きなさいよ。
 隣がいないのは良いなってのびのび暮らしてたわけ。あなたのウサギにしちゃやたらとデカい足音も、私の癖のようなひとりミュージカルも、誰にも文句を言われずに今まで過ごしてきたの。聞いてください、エンドレスMASASHI歌劇団。あなたの人生ではあなたが主人公。古い? 好きなの放っておいて。それが、それがよ、今日の夜。仕事帰り。それこそ半分船漕いでるみたいな私がふらふらしながら鍵を探していたら、すぐ隣の家のドアががちゃっと開いたわけ。思わず見るジャナイ? 今まで誰もいなかったはずの部屋から人が出てきたら見ちゃうジャナイ? あれが貞子だったら私今頃お陀仏だわ。今度は気をつけよう。そんなことはどうでもよくて、そうよイケメンの話よ。そこから出てきたのはイケメンだったのよ。それよ。本題はそれよ。今日の夕飯のカップ麺をべりべりと開けながらハニーを指差す。何してたって別に傘外に干してただけよ。それはいいのよ。いい? すっごいイケメンだったわけよ。驚くほどに。そしてこれは私ひとりの主観じゃないわけよ。分かる? ハニー。あの子よあの子、金髪茶色目のモデル出身現俳優のあの子。その名も黄瀬涼太。うちにテレビも無い、おしゃれ系雑誌も見ない、そんな私でもすぐに分かるレベルのイケメンが、こんな辺鄙なアパートに越してきたってわけよ。びっくりするでしょハニー。私もびっくりだわ。あとこの担担麺おいしくてびっくりだわ。また買って来よう。







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