最初から黒子っちのことを尊敬していたわけじゃなかった。だってドリブルもできないし、シュートも撃てないし、バスケすんのにそれ以外なにがあんの?って感じだった。赤司っちはすごい人で、そのすごい人が認めたからスタメンにいたりするわけで、だから確かにすごい人なんだけど、やっぱ全然興味持てなかった。オレの教育係なんて言い出した赤司っちにちょっとむっとしてしまうくらい。

でもそんな黒子っちが最初に教えてくれたのは、「勝つこと」だった。だってそうでしょう、負けたらもっとつまらないだなんて、もっとってことは今もつまらないってことだったんでしょう。黒子っちはすごい人だった。自分を殺して、パスに特化して、試合の中で埋もれるように、誰にも気づかれないようにボールをまわす。オレだったら絶対そんなの嫌だ。緑間っちのシュートも一人ぼっちだなって思ったけど、黒子っちのパスはもっと一人ぼっちだ。誰かがいないと息ができない。オレは自分だけでも息がしたい。

青峰っちの影になった黒子っちは、なんだかとても楽しそうだった。一人では息ができない黒子っちは、光を見つけて嬉しそうに呼吸をする。青峰っちは酸素みたいなもの。形のない、けれど確かにつなぎとめる光。心でつながるふたりを見て、オレもそんな風になりたいと思った。影があるから青峰っちはすっごく強いのかなって。誰かの影になるのはごめんだったけど、誰かの光になるのは悪くない。

そうして青峰っちは黒子っちを手放した。あんなに仲が良かったのに、青峰っちは急にバスケがつまんなくなったって言って、部活にもこなくなった。オレは全然わかんなくて、もしかしたらオレが負けてばっかだからつまんなくなっちゃったのかもしんなくて、だったら青峰っちが捨てた影を切り取ってオレにつなげて、オレがもっともっと光ればいいんだって思ったんだよ。オレの酸素は勝利だった。勝てば楽しい。青峰っちとの勝負は負けても楽しかったけど、試合で負けるなんて考えたこともない。全戦全勝。帝光中の理念。オレはその考えに心酔して、考えなくても与えられる勝利に麻痺して、思考することを放棄した。

そんな風だったから、黒子っちは出ていってしまったんだと、オレは今更になって理解した。負けるってこういうことだったんだ。思い出してみても、オレは負かした相手のことを、一度たりとも見てこなかった。青峰っちはあれだけ負け続けたオレを、それでも見ていてくれたのに。負けるってすごく悔しくて、胸が苦しくて、痛くて、つらくて、何がくるしいって、オレが認めたすごい人も悔しくて泣くってことだった。馬鹿なオレはずっと気づいてやしなかったのに、それでもずっと背中を押してくれたセンパイたち、誰よりも笠松センパイに、あんな泣かせ方をしてしまった。そのときオレは思ったんスよ。もう絶対に負けたくないって。オレは絶対勝つって。そう思ってみたらね、黒子っち、世界が急に開けたみたいに、ああ、バスケってこんなに面白かったんだって。黒子っちが言ってた楽しいってこういうことだったんだって。そう思えたんスよ。

もしかしたら、オレと黒子っちの思う楽しさはちょっとずつ違うかもしれないけど、それでもオレは黒子っちのおかげで知ったことがたくさんあって、そこからはじまったことがたくさんあって、だからありがとうって言いたいんス。最初ばかにしててごめんね、ずっと気づけなくてごめんね、黒子っちのがんばりをもっとちゃんと見てたらよかった。オレは黒子っちの光にはなれなかったけど、でも、オレのことを光だって、エースだって、言ってくれるひとはもういるから。もう黒子っちのことばっかり追いかけたりしないから。だから今度は、ちゃんと、隣に立って、一緒に、走って、いけたらなって。そう思うんス。だってやっぱり、黒子っちは、光じゃないけどきらきらしてる、オレの尊敬だから。ずっとずっと。


お誕生日おめでとう黒子っち。オレ今ね、バスケ、すっごく楽しい。




君に送る文に似た
(両手いっぱいのありがとう)


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