「お、…はよ。黒子」

「おはようございます。火神くん」


肩に部活鞄をかけ、部室のドアを勢いよく開けた火神は、前兆もなく視界にとびこんできた光景に目を見張った。そこにいたのは部員がひとりと影がひとつ、ここは確かに誠凛の部室だったよなそうだよな、脳内にぐるぐると疑問符が駆け巡る。

痛み始めた頭をおさえながら、火神は唯一日常であるチームメイト(むしろ唯一の非日常?)に静かに問いかけた。


「…あの、よ」

「このひとのことでしたら心配いりません。ここにいるだけですから」

「そ、そうなのか?」


黒子は別段気にした様子もなく淡々とそう答えた。ペラ、読んでいる本のページをめくる。


「たまにあるんです。気にしなくても、すぐに治まります」


ねえ黄瀬くん。黒子が小さく影の名を呼ぶ。

そう、そこにいたのは、部員である黒子と、他校生である黄瀬のふたりだった。片方は部員なのでいることにはなんの不思議もなく、ただひとつの異質は黄瀬の存在。床に座りこんだ黒子の椅子になるみたいに、黒子を足の上にのせて、後ろから腕を回して。黒子の呼びかけにもぴくりと動いただけの黄瀬は、火神が入ってきてからずっと無言を通している。


「…なら、いーんだけど」

「はい」


釈然としないといいたげな火神に笑って、それよりも、と黒子が呟く。


「早く着替えて練習に行かないと、日向先輩に怒られますよ?火神くんが遅いって、先程怒鳴ってましたから」

「うえ!?お、お前それを先にいえ!!」


慌てて着替えを終わらせて、鞄の中に入っていたペットボトルをひっつかみ、火神はばたばたと部室を後にする。



部屋に残されたひとりが、その背を見送って。




黒子がちいさく、くすりと笑った。




侵す旋律
(君に流れ込むのは)
(ボクという名の、音。)
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