ベンチに座るとき、速攻をかけるとき、着地をするとき、アップをとるとき。時折何かを訴えかけてくる体に、オレが返事をしなくなったのはそう昔じゃない。ああ今日も何か呟いてる。笠松センパイの声に大声で返して、オレはまた頭を真っ白にする。目を開けたコートの中、オレの肩を右肘でつつく影がある。
「黄瀬」
「森山センパイ。どしたんスか」
「お前、大丈夫か」
「……はい」
大丈夫っス、我ながら自然な笑顔で応えられた。森山センパイはそうか、と目を細めて、それだけで去っていく。センパイは弱いくせに、それでいて強くあろうとするところがある。諦め癖があるんだと呟いたのを、オレは聞かなかったふりをした。
「きーせ! ナイッシュ!」
「どもっス、早川センパイ!」
「調子いーな」
「もーばっちりっスよ」
腕の真ん中あたりをうちあわせて、早川センパイが笑顔で駆けていく。どこまでもまっすぐで純粋な人。頭を使えないプレイヤーは必要ないと言われ続けたオレにとって、最初はかすんで見えるような人だった。今は違う。オレの背中をあたたかく、つよく、まっすぐに押す。
「きーせ」
「中村センパイ……」
「お前の道、開くから。迷うな」
「……了解っス」
同じコートに立った回数は多くない。オレの交代要員としてベンチ入りした中村センパイ。悔しくないわけないのに。つらくないわけないのに。オレのシュートを見て、お前らしいシュートだなと笑ってくれた中村センパイ。
「後ろは気にするなよ」
「……小堀センパイ」
「黄瀬。お前が思うままに走れ」
「っ、はい!」
オレの背を叩く手は大きい。何かに特化したわけじゃない、派手な技があるわけじゃない、それでもオレは、この手にずっと支えられてきた。小堀センパイは、ずっと見守ってくれてたんだ。気づけなかった。オレがばかだったせいで。胸に落ちた熱をぎゅっと握る。
「――黄瀬」
「笠松センパイ、」
「まだ、行けるな?」
走り続けて辿り着いた場所。ようやくオレは、センパイたちと同じ、スタートラインに立つ。一年だからって関係ない。オレは、オレが、海常のエースだ。柱は笠松センパイで、オレはその枝のひとつ。オレはまだ走れる。続く道に何があっても、たとえこの体が悲鳴をあげて、壊れることがあったとして。
オレの輝きは失われない。この人たちと、今、頂点に立つ。
(黄色い栄光)