「ねえ、黒子っち」

「なんですか」


ぴんと立てた指の上、茶色いボールがくるくると回る。壁に背を預けてぼーっとしているオレの横で、黒子っちは黙々とシュートの練習をしていた。そんなことしなくたって、…点を取るのはいつもオレたちなのに。


「たとえばオレが、」

「はい」

「…オレが…」

「はい」


よそ見をしたその一瞬で、指とボールが決別する。今まで操られていたみたいにくっついていた指から(もしかすると、ボールから?)、離れたそれを眼で追った。黒子っちのボールは、ガコンという音とともにわっかを通過する。

腕につけたリストバンドを見た。オレのファンがくれたやつ。何度か応援にも来てくれてるらしいけど、オレは全然興味がわかなかった。それを申し訳ないとか失礼だとか、そんなことを思ったことはなかった。感情を向けたこともなかった。でもただなんとなく、今だけはそれが忌々しいと思ってしまって、無表情のまま腕から引き抜いて床に叩きつけた。何これ。頭の隅でそんなことを思う。


「黄瀬くん」

「…なんスか?」


いつの間にか、黒子っちはシュートをやめて手にボールを持っていた。く、と一度投げるまねをして、オレが反射的に手を構えるとそのまま投げ込んでくる。受け止めたボールは、…なんだかいつもより重かった。


「ボクは君を、君たちをすごいと思います」

「…黒子っちだってすごいっスよ。何回もいってる」

「はい。でもボクは、君たちのようには闘えないから、」


ひゅ、とボールを投げ返す。黒子っちが受け取る。投げ返してくる。投げ返す。それを何度か繰り返して。


「やっぱり、間違っているといいます。何度でも」


そういって、黒子っちはちょっとだけ笑った。困ったように、ちょっとだけ。視界に入った黒子っちの腕の黒いリストバンド、ラインは燃えるような赤だった。いやな感情が渦をまく。そんなこといってたら試合に出してもらえなくなるっスよと、いつも軽口でいう台詞がいえなかった。練習のせいじゃない汗が、じっとりと俺を蝕んで。


「それがボクの、やり方ですから」


きゅ、という靴音が、耳障りなまでに大きく響いた。



に反逆する
(ねえ、なんでオレたちわかりあえないの?)
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