ペットボトルの水をあおるついでにベンチに寝転がったまま動く気配のない固まりに、オレはちょっとだけ心配になってタオルを投げつけた。「ぶべっ」それは存外強くなってしまったようで、黄瀬は今まで聞いたことのないような声で顔面に受け取ったタオルをつまみあげる。それからすぐ、苛立たしげにうめきながらオレを睨み付けてきた。
「何すんスか」
「別に。冷えたら困るだろ」
「火神っちには関係ないっスよ」
「だろうな」
「…さいあく」
火神っちに心配とかされたまじムカつく、と未だに体勢は変えないままでぶつぶつと呟く。黄瀬はオレに無駄な干渉をされるのを嫌う。自分とオレを繋ぐものが何であれ、黄瀬には気に入らないと認識されてしまうらしい。面倒なやつ。けれど、こちらも面倒だと認識してしまえば、案外そういうものだと納得出来てしまうらしかった。そのことでどんな態度をとられようと、そんなものかと思えば腹もたたない。
「これからどうすんだ。マジバでも寄ってから帰るか?」
「んー…いい。めんどくさい」
ベンチの上でごろりと寝返りをうつ。なら解散するかとは言わせない雰囲気で、それでもオレの言葉を待っている黄瀬はやはりどこか犬のように見えた。もしくはぐずりだす直前のガキ。
「んじゃ、お前はどこに行きてぇんだよ」
「火神っちの家」
「…言うと思ったけどな」
「だめ?」
「駄目っつーか、お前のとこも明日朝練あるだろ」
「その分早起きする。そしたらいい?」
「…あのな」
オレが渋るようにすると、むう、と拗ねたような表情をする。いや、お前みたいなデカい男がそんな顔してもかわいくねえから。…かわいくない分なんだと聞かれても、それはそれで困るのだが。
そんなオレの思考を知ってか知らずか、黄瀬は少しだけ伸ばした手でオレのシャツの裾をちょんとつまんだ。ねえ、甘えた声で。
「…火神っちともっと一緒にいたいよ」
しょうがねえなと返す傍ら、そんな一言でまたこいつを甘やかしてしまうオレが多分一番悪いんだと、神ではない見えない何かに向かって悔し紛れに呟いた。
ハッピースロウ
(お前がいいなら、)
(…っていうのは言い訳なんだろうな、きっと)