アツシは可愛い。
お菓子をもぐもぐと食べながら、その目はぼうっと空を眺めている。何を考えているんだろう、バスケのことかお菓子のことか、それともこれからの授業のことか。多分アツシのことだから、今日は晴れだねなんてそんな当たり前のことでも思っているのかもしれない。淀みなく動く手は次から次へと魔法のようにお菓子を運ぶ。
「アツシ」
「んー? なぁに、室ちん」
「なに考えてたの?」
机に肘をついて手を組んで、顎をそっと乗せた体勢で首を傾げる。アツシはオレのマネをするようにちょっとだけ首を傾げて、「ひこうき雲がいたから」それ見てたの。淡々と、興味もなさそうな声で言う。…でもオレはねアツシ、お前がそうやって話すとき、視線の動きで本当の気持ちが少し分かるんだよ。ひこうき雲があるらしい方をチラッと見た、きっとそれはとても興味深いものだったんだろう。
「知ってるかい、アツシ。ひこうき雲はね、サンタクロースが走った軌跡なんだって」
「……室ちんさぁ、オレのこと馬鹿にすんのはいいけど、…オレもうサンタ信じてる歳でもないし」
「ふふ。知ってる。バカになんかしてないよ」
「じゃあ何」
「アツシにそういう話をしてるって思うと楽しいんだ」
ごめんね。にっこりと笑って頭を撫でてやれば、アツシは納得いかなそうな顔をしながらも口を閉じる。言いたげな口には袋から出したお煎餅を放り込んで、またひこうき雲がいたという窓の外をじろっと見た。そんなに睨むと雲が怖がってどこかへ行っちゃうよ、アツシ。
「…室ちんていじわるだし」
「そう? それは気づかなかったな。ごめんねアツシ」
「そーゆう白々しいとこきらい」
「アツシがオレのこと嫌いでも、オレはアツシのことが好きだよ」
「そんな話してないし」
室ちん意味わかんない、いよいよ眉間にしわを寄せる。からかいすぎたかな、アツシが可愛くて思わずね。言葉に出さなくても通じたらしいその言葉は、アツシを完全に拗ねさせるには十分だったらしい。もうヤダと言わんばかりに腕に顔を埋めて、鉄壁防御の体勢に入る。その頭をもう一度撫でた。ふり払われない右手は、アツシの少し傷んだ髪に容易に触れる。
「アツシは可愛いなぁ」
「……にめーとる超えの男相手にばかじゃないの」
「拗ねててもちゃんと返事してくれるし」
「室ちんがしつこいからだし!!」
がばっと起き上がったアツシは顔を真っ赤にしていて、それが年相応に見えてオレはなんだかとても嬉しかった。アツシに限らず、キセキと呼ばれる彼らは皆大人びて不安定だ。その不安定を崩して、16歳らしい表情を引き出したい。オレのことからかってばっかと睨みつけてくる紫色は澄んで夕暮れのグラデーションのようで、手を伸ばしたい衝動を抑えつけるのに苦労した。ここは学校で、しかも陽泉はクリスチャン系の特色をもつ。オレはともかく、アツシにそんな苦労をさせるわけにはいかない。
もう、と頬をふくらませるアツシの前でそんなことを思いながら笑っていたら、渡すタイミング全然ない、アツシがまた拗ねた表情で呟いた。何を? 聞いてみたところで反応は無いだろうと思っていた、のに。
「……室ちん、誕生日でしょ。だからプレゼント」
お誕生日おめでと。乱暴に置かれた素っ気ない紙袋、中にはきっと色とりどりのお菓子がたくさんつまっていて、
特別な日常に
(君の愛はもどかしいほど)