素直じゃないこいつが遠回りに本音を伝えようとするところ、多分出会った頃からずっと変わらないんだろうなって。



「火神っち、じゃんけんしよ」
「…なんだいきなり」

飯食って皿片付けてひと段落、少し離れた場所に座った黄瀬は、つけたテレビには全く見向きもせずにそんなことを言い放った。大体何を決めるにも話し合い(と、後はこいつの癇癪の度合い)でしか判断しないくせに、いきなり何を言ってんだ。当然ながら眉を寄せたオレに、黄瀬は無表情のまま拳を出した。

「じゃーんけーん」
「待て。これ負けたらどうなんだ」
「えー? …んーと、じゃあ負けた方が勝った方の好きなとこ言う」
「なんだそりゃ」
「はーい出さなきゃ負けよーじゃーんけーん」

ぽん。反射的に出した手はオレがグーで黄瀬がパー。うっわ火神っちじゃんけん弱いんスか、見下すような言い方と表情は慣れたもの。腹が立たないかと言われれば一発殴らせてほしいくらいには腹がたつが。

「でははいどうぞ」
「あー? あー………じゃあ、顔」
「じゃあってなんスか、こんなイケメン捕まえといて妥協案スか」
「ムカつくとこならいっぱいあんだけどな」
「……ふぅん」

あ、ちょっと拗ねた。気に入らないってありありと目に書きながら、それでもまあ自分の態度に原因が有るのも分かってはいるんだろう。黄瀬はそれ以上特に何も言わず、もっかいねと手を出した。

「じゃーんけーん」
「ぽん」
「……アンタ、じゃんけん、マジで弱い。弱すぎ」
「連敗しといて言う台詞じゃねぇけど、お前に言われたくねーよ」

テレビの企画や黒子や青峰と戯れのようにするじゃんけんでも、黄瀬が勝っているところは全然見たことがない。なんでオレ勝てないんスかねと眉尻を下げて涙目になって、会場で見てる客にもカワイイーと言われていたのを思い出す。それよりも弱いオレ。遊びといえど、泣きたいのはこっちだ。

「じゃーはい、もういっこ」
「んー…うぜぇとこ」
「…アンタってドエムだよね、前から思ってたけど」
「あと、照れるとそうやって罵倒してくるとこ」
「全ッ然照れてないっス!」
「素直じゃねぇとこも好きだけどな」
「ばっ…!」

まじほんとになんとかかんとか、よく聞こえねえ声で何やらぶつぶつと言っている。俯いた耳はちょっと心配になるくらい真っ赤になってて、薄金に近くなった淡い髪の下で、なんかもう熱あるんじゃねって聞きたくなるほど涙目の茶色が睨みつけてくる。返り討ちにあう黄瀬は、なんつーか、結構かわいかった。馬鹿はオレだ。

「オレばっかじゃつまんねえしもう一回やろうぜ」
「もうヤダ。絶対ヤダ。火神が意地悪するからヤダ」
「…あんまかわいいこというと襲うぞ」
「へんたいあほばかがみ!」
「だーさなーきゃまーけよーじゃんけんぽん」

きゃんきゃん子犬みたいに吠える黄瀬を無視して言えば、それでも慌てたように拳をひょいっと出してきた。オレはパー。まあ、あらかた予想通りの展開。

「ヤダー!! 誰かー!!」
「勘違いされそうなこと大声で言うな黄色頭!」
「何が勘違いスか、セクハラ魔人の癖に」
「そのセクハラ魔人と付き合ってるお前も大概セクハラだよ。ほら、どうぞ」
「っ…! っ……ばか!!」

置いてあったティッシュケースをぶん投げる。まっすぐ飛んできたそれをひょいっと避けて、テーブルの上にあったカップをさりげなく手前に寄せる。パンクすると見境なく物を投げ出すモデルからの防衛策。脳内わけわかんなくなってる黄瀬は拳をぎゅっと握って思い切り目を閉じて、それでいて真っ赤だからもう笑うしかない。なんだお前それ、カワイーなオイ。

「……ご、ごはんおいしいとこ」
「うん」
「あと……わがまま聞いてくれるとこ」
「うん。それから?」
「……オレのこと」

うん、頷いて笑ってやったら、こちらをちらりと見た黄瀬は口元を抑えてさらに俯いて、とうとう丸くなってしまった。座っていたクッションの上にこんもりと山ができる。「お前のこと、なんだよ」ふきだすのをこらえながら促す。黄瀬はまんじゅうみたいな体勢のまま、器用にふるふると首を振って。

「こ、これ以上はしんじゃうっス……」

自分で仕掛けてきたくせに最後はギブアップ、一番言いたかったんだろう本音を聞きだす前にゲームオーバー。そんなこと、オレが許すはずもない。

もっと好きだって言ってやるよ。バカなプライドが邪魔して言えない、お前の代わりに。…なんてな。





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