黒子っちがいなくなってから、ずっと考えていたことがあった。
キャプテンのチームでバスケをするのは楽しかった。強いチームメイトとボールを繋いで点を稼ぐこと、相手チームを完全に負かすこと、百戦百勝の元に行われるプレイに没頭できるのが楽しかった。元々青峰っちに憧れて入部したこともあって、チームの一員であることが何よりも誇りだった。
それを、黒子っちに否定されるだなんて思いもしなかった。オレにとって、黒子っちはもしかしたら部員の誰よりも勝つことを目標としていた人だった。だからオレは――オレは、黒子っちも、楽しいんだと思ってた。流れるようなパスをボールの取り合いだと言われ、毎試合あったそれこそゲームのような点のノルマを、彼らは異常だと一蹴された。それが悔しかった。オレはきっと、黒子っちにも分かって欲しかったんだと思う。一緒に共有したかったんだと思う。オレは黒子っちが好きで、青峰っちが好きで、緑間っちが好きで、キセキのみんなが好きだった。同じバスケという競技の中で尊敬できる、すごい人たちだと思ってた。尊敬してた。もちろん黒子っちも。なのに。
海常の体育館で、ベンチで、オレはよく考えた。黒子っちの思うバスケって、なんなんだろう。オレがバスケをやる理由ってなんなんだろう。笠松センパイにも、森山センパイにも、そんなことは聞けなかった。どうしてだろう。誠凛なんていう無名の学校に進学した黒子っちを、オレは心のどこかでバカにしてた。だってそうだ、あれだけ勝ちたいなんて言ってた癖に、負けたらきっと言い訳にするつもりでそんなところに行ったんだろ。そう思った。ちょっとだけ見損なった。実際他のキセキはみんな強豪校に行ったし、オレはそういうもんなんだって思ってた。それこそ多分、キャプテンの――…赤司っちの思うバスケに、オレも傾倒してたから。
勝つことは生きることだ。負けた先に未来なんてなかった。それはオレたちが負かしてきたチームに見た姿だったはずだ。それなのに、オレはあのとき、火神っちと黒子っちに負けて――でも、それだけだった。負けた先に未来はあった。笠松センパイが、カントクが、部員のみんなが、作った未来だった。たかが練習試合で、オレはきっと、人生で二度目の大きな変化に出会ったんだ。オレが信じてきたはずのキセキの信条は、シナリオのどこにもいなかったはずの火神によって打ち砕かれた。間違ってたはずなんてない。でも、それはきっと、正しくもなかった。あの時笑顔で勝利を分かち合うふたりを見て、オレは、……少しだけ、寂しかったのを覚えてる。
バッシュの紐を結びなおして、オレはベンチから立ち上がった。ユニフォームの裾をちょっとだけいじる。不意に、こん、と叩かれた扉の音に顔をあげた。
「あ、火神っち」
「おせぇよ。カントクが呼んで来いってうるせぇ」
「マジで？ 今行くっス」
早くしろよと言って戻っていく火神のユニフォームにも、同じようなマークがある。そういえば青峰っち、昨日バッシュの紐切れたとか言ってたけど大丈夫かな。今日のおは朝も特に見ていない。どうでもいいことのような、それでいて大切なことのような、そんなことを思いながらお菓子の袋をのけてオレも外へ出る。
あの頃夢見た舞台に立つ。目を閉じた向こうに、遠く彼の人の声がした。