何気ない日常の中でふと気づく、隣にある温度はいつも同じだった。
クラス対抗ではなくランダムに分けられたスポーツ大会で、オレは赤色のはちまきを頭に巻いてぼんやりと競技の進行を眺めていた。応援席と銘打って枠づけられた白線の内側、同じように座って声援をおくるチームメイトの声が響く。現在行われているのは100m走だ。軽やかな空砲とともに飛び出していく選手を見ているのは、そう悪いことではなかった。
「緑間くんは次、なに出るの?」
「昼食後の玉入れまで何もないのだよ」
「そうなんだぁー」
「バスケ部ですっごい強いんだよね、頑張ってね!」
「…ああ」
競技の準備で入場口へと向かうチームメイトたちが手を振りながら去っていく。つかず離れずというか、あっさりとした関係が心地よかった。干渉されるのは得意ではない。
バスケ部でもクラスでもない場所で煩わしさを感じないのも珍しいなと思いながら、かちゃりと眼鏡のブリッジをあげる。日差しの強い日だ。手元の水筒を揺すったら、今日のラッキーアイテムである青い紐のついた鈴がちりんと鳴った。
「さっきのリレーさあ」
「次の入場ってどこだっけ?」
「腹減ったー早く弁当食いてえ」
「先輩の演技見た? ちょーかっこいいの!」
「応援合戦の団長会議あるってよ」
「やっぱ赤つえーなー」
入れ代わり立ち代わり人が来て、少しするとまた離れていく。日差しが強まってきたのを感じて、椅子から立ち上がって日陰に移動した。一歩離れて見るグラウンドはとても広かった。それから少しだけ遠い。体育館ではいくら離れようとも感じることのない疎外感、オレは無意識のうちにふう、と息をついた。その直後。
「だーれだ」
ぱさっと巻かれた黄色い布。覆われた景色にひとつ瞬きをしてから、今度は意識的にため息をついた。はあ。
「…何をしている、高尾」
「おおー、真ちゃん大正解ー! やっぱ分かるか」
「こんなことをするのはオマエくらいなのだよ」
「えっ何それちょっと照れる」
「こんな馬鹿らしいくだらないマネをするのはオマエくらいなのだよバカ尾」
「ストレートな罵倒に言い直された!!」
黄色い景色が外された先に、前髪をあげた高尾がいた。少しだけ拗ねたような表情をしてからいつものようにニカッと笑う。汗をかいたその顔は見慣れたものだったが、はちまきを巻き直す様子が物珍しくてついじっと見てしまった。薄暗い蛍光灯ではなく日の光を浴びる高尾は、どこか透き通って淡く見える。
「…真ちゃん? どしたの、ぼーっとして」
「……ただの考え事なのだよ」
過干渉で気まぐれでまっすぐでどこか危うくて、そんなオマエの隣は悪くないといつか言えたらと。
きみとかくれんぼ
(隠れたオマエの光を知る。)