「どうしたら貴方をきらいになれますか?」


ひやりとした手を握った。綺麗な髪には鮮やかな紅が染み込んで、斑模様がいっそう痛々しい。


「そう、だな…マフィアを憎めば、とか」

「……それでも僕は、きっと貴方を愛さずにはいられない」


彼の声が、徐々にちいさくなる。ああ。叫びだしてしまいそうな。けれど慟哭にはまだ早かった。


「…じゃあ俺も愛するよ。お前がどんな姿形になっても、その時の俺が、きっとお前を愛するから」


わらってと、いつも貴方が僕にいった言葉を思い出す。僕はわらった。ああ、ひどいひと、貴方はこんなときまで僕をくるしめる。



「…だからこれは、またあうためのさよならだ」









最期のキスは、切ないほどに優しかった。























「――――…、」



意識が緩やかに覚醒する。細く見える視界には、見慣れた白い天井がうっすらとうつる。カラカラとまわる換気扇にほう、と息をつくと、不意に自分の目からほろりと雫がこぼれるのを感じた。


「…?」


包まれていない方の手で目元を拭う。次から次、ぽろぽろと後を絶たない涙に途方にくれながら、僕を無意識に抱きこんでいる腕にきゅう、としがみついた。あたたかい。


「…むく、?」

「っ、」


すがりつくみたいに頬をすりよせていたら、それまで静かに寝息をたてていた男が今度は意思をもって抱きしめてきた。思わず強ばらせた肩にキスがひとつ、ゆっくりと息をはきながら体の力をぬく。すみません、とそこで初めて声が出せた。


「…起こして、しまいましたか」

「んーん…どした」

「いえ、」


寝相で少しあいていた隙間をつめられて、背中ごしに彼の温度を目一杯感じた。瞳を閉じる。大丈夫、彼はまだあたたかい。


「…少し、…夢を見て」

「ゆめ?」

「はい。もう、覚えてないのですけど」


そっか、寝惚け眼のままで彼が囁く。大丈夫だから寝ててください、僕がいうと、うん、と微睡んでいくその最中で、またちいさく。


「…お前はひとりじゃないよ」


















つめたくなった貴方を抱きしめた。わずかに笑みのかたちをとった唇すらも氷のようで、もう声さえもだせなかった。音を成さない息で、ただ貴方の名を呼んだ。



再会をと願う、貴方の名を。



















夜一夜、そして
(必ず会いに行く)
(約束したあなたのもとへ)



(千の夜を、こえて。)




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