「起きろ。仕事だ」

格子をがつんと蹴られた衝撃で覚醒した。外はすっかり明るくなっている。最後までやすめなかった体がぎしぎしと痛んだが、それだけのことを伝える方法も分からなかった。伝えたところでおつとめが無くなるわけでもない。

いつもおつとめをくれる男の人が、何かを見ながら感情のない声で指示をだす。震えがとまらなかった腕を逆の手でぎゅっと握る。心臓が張り裂けてしまいそうだった。この時間がこわくてたまらない。

「お前とお前は3番街。お前はリール様のお屋敷。それから――…ああ、お前はあとで馬車に乗れ」

指された先は、自分、の、奥の方の箱だった。血が一気に冷める感触がする。震えながらゆるゆると息をはく。今日も生き延びた。分かるのは、求めているのは、それだけだった。

指名された子が狂ったように叫びだす。泣きわめく。その声を聞きながら、いっそ笑顔にでもなれそうな”こちら側”がひとりずつおつとめに向かう。今日もあの扉を自分の脚でくぐれる。

引きずり出されてざらざらとしたはいいろの地面に立つ。腕をつかまれるのはきらいだったけれど、このいたいのも生きていると思えば耐えられた。この扉を出ればあの子を見ることは二度とない。だからと言って、思うことなどなにもなかったけれど。





扉をくぐると、明るい光が眼の中にたくさんとびこんできた。上を見ないようにして歩く。不意に腕を離されてもよろけること無く、しっかりと見えるように土を踏む。おなかがすいたな、とぼんやり思った。ご飯をくれる人だといいな、とも。

「こいつはどうしますか」
「そうだな……ディエオ様のお屋敷でひとり人形を欲しがっているらしい」
「人形にしちゃ、ちょっと痩せすぎじゃありません?」
「骨と皮みてぇなのが好きな人種もいるんだよ。とりあえず適当にきれいにしとけ」
「へいへい」

こっちだと引きずられるままに歩く。なぜだか肩口がずきずきといたんだ。息を吸って、はいて、燃えるような体温を逃がすように息をする。お屋敷の裏の方、ちいさく蛇口とホースがついた洗い場に立たされて、ぬるま湯よりもすこしつめたいくらいの水で思い切り洗われた。さむい。黙ったまま立っていたら、どこかから持ってきていたらしい布の多いふくで覆われる。…初めて、とてもきれいな服を着た。

「今から大きなお屋敷にお前を連れて行く。ご主人様の言うことに従うこと、ご主人様が聞くまで口を開かないこと、粗相をしないこと。いいな」

こくり、頷いた。

随分と何も口に入れていない体はふらつくほどに弱っていたけれど、それでも、しにたくはないと、強く思った。




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