「わ、なんかけもの!」

立ち寄った島で買い出しをしたその帰り道、袋を抱えたキャスケットが何かに気づいて楽しそうな声をあげた。

「けもの?」
「ほらアレ、あそこの酒屋の看板の下!」
「…ああ、猫か」
「ネコ?」
「知らないのか?」

きょとんとした顔で振り向いたキャスの向こう、何の変哲もないありふれた柄の猫が佇んでいる。猫なんてものはおれの島にもいたし、ローの屋敷に行けばもっとたくさんの猫が勝手に住みついたりうろついたりしていた。そのせいで猫には少し詳しくなったのだが、それでもあれは珍しくもないただの三毛猫だ。

「ネコ、って、どこにでもいるもんなの?」
「さあ…そこまで詳しいわけじゃないが、おれの故郷の島にも猫は普通にいたな。ここまで航海してきた大体の島にもいたとは思うが」
「へえー。おれの島にはいなかったな、あんな変なけもの」

猫に向かってけものと言うの習慣はおれの脳内にはなかったが、それでもしみじみと珍しそうに猫を見るキャスケットは少し面白かった。立ち止まったことを咎めなどしない。見ている間にあちら側も気づいたのか、猫がこちらをすっと見て、何かを考えるように首を傾げた。それから、鳴く。にゃあ。

「!! 何か言った!!」
「鳴いたんだ。猫だからな」
「ネコって鳴くの!」
「けものだから。……まあ、鳴くだろ」
「そ、そっか…!」

うわあうわあと子どもように声をあげるキャスを見ながら、不意に思いついて猫に向き直る。抱えた袋をがさりと鳴らせば、猫は案の定ちらりとこちらを見た。試すような視線。窺うような瞳。隠されるはずもない警戒心を前に、おれはにっと笑う。

「にゃー」

大げさに揺れたのは目の前の肩。飛び跳ねるようにしておれの方を振り返ったキャスに構わず、ぱちっと瞬きをした猫を見つめ返した。ふたつ、みっつ、沈黙があって。

「…にゃあ」
「にゃー」
「にゃあ」
「にゃ」

猫は存外大人しく、おれの”鳴く”声に律儀にひとつひとつ鳴き返してきた。首がもげそうな勢いでおれと猫を交互に見るキャスの顔は、なんていうか、その、良くいえば幼い子どものようだった。後は察してほしい。

おれが少しだけ遠い目になったのを見てかどうか、猫は最後にひとつだけにゃ、と高く言い残して、ひらりと塀を乗り越えていった。「あ! …あーあー」名残惜しそうにしたのはキャスの声。残像を追うように見つめる背中を横目に、船へと向かう道に向き直る。いい加減に戻らないと。

「かわいかったなー、ネコ」
「そうだな」
「後で船長にも教えよう!」
「そうだな」
「あとペンギンがネコと喋れますって教えてあげないとな!」
「それはやめろ」

はやくはやくとおれを急かして駆け出すキャスに、同じように広がる青空を見上げて目を細めた。

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