かちゃり。ことり。こつこつ。

この人が触るものは全部、生きた音を奏でだす。削って、打って、はめて、調整して。"作り出す"その手は、とても広くてあたたかい。

「ん〜……こんなもんか。どう思う、ロビン」
「さあ、私にはよく分からないけど」
「ふふん。こっからよく分かってくるんだって」
「そう?」

続けて。促すように言えば、またドライバーやら何やら、やっぱり私にはよく分からないものを使ってそれをいじりだす。小さな箱。この人の手にもすっぽり入ってしまうような。

淹れてもらった珈琲が冷め切ってしまうその少し前、彼がよし、と嬉しそうに言って道具を置いた。何かが完成したらしい。ためつすがめつ箱を点検した彼は、それを一度ゆっくりと包んで、…それから、私の目の前に差し出した。

「…なにかしら?」
「ほら、これ」
「どうすればいいの」
「いいから開けてみろって」
「…言ってくれなきゃ分からないわ」

呆れたフリをして手をのばす。小さな箱の上から3分の1くらい、ふたになっているそれを開けた。

……流れ出したのは、小さな金色を弾く、聞いたこともない子守唄。

「…オルゴールなの?」
「そうさ。言っておくが、箱製作だけがおれの仕事だ。作曲したのはおれじゃねぇ」
「作曲って…ブルックだったら驚きだけど」
「ご名答。さぁすがロビン」
「ほんとに?」

手渡されたオルゴールを手のひらに乗せて、一度閉じる。また開いた。同じ曲が、違う音から、とめどなくあふれて零れ落ちる。目の前の彼を見つめれば、得意げな表情で微笑まれた。少しだけ、息をはく。

「…ありがとう」
「…ロビンよぉ、お前、なんでおれたちがそれ作ったか分かってるか?」
「え? …理由なんてあるの?」
「……いや分かっちゃいたけどよ」

ぶつぶつと呟かれる言葉を、意識的に聞かないようにした。そうして、私の中にこの人の居場所ができていく。今はルフィの方がずっと広い。でも、この人の隣も居心地が良い。私は首を傾げて、「どうしてくれたの?」もう一度聞いた。立ち上がって、彼が少しだけ照れくさそうに頭をかく、そのすぐ横にしゃがみこむ。

ふたに触れる。閉じる。開く。同じように奏でられる唄を聞いて、彼が渋々を装って口を開いた。

「…お前、昨日、誕生日だったんだって?」
「ええ、そうよ。それが?」
「それがってお前、誕生日は祝うもんだろうが。ルフィに聞いてねぇのか?」
「聞いてるわ。次の島で美味しい食べ物がとれたら、宴を開いてくれるって」
「…………そっちをおれが聞いてねぇってことになるのか?」
「そうみたいね」
「…………………」

長い長い沈黙。しまった、なんて表情を隠しもしない彼がおかしくてたまらない。なんでもない風に返すのはとても難しかった。でも今は、彼の方が動揺しているから。だから大丈夫。

「…悪かった」
「あら、どうして?」
「タイミングを間違えたなー、と」
「私は嬉しかったのに」

開いたままのオルゴールの針に触れる。彼は弾かれたように顔をあげて、彼の視線が私とオルゴールの間を忙しなく往復した。「…きれいな音ね」後でブルックにもお礼を言わなくちゃ。

ありがとう、真っ直ぐ見返した瞳の中に海が揺れる。「…誕生日、おめでとう、な。ロビン」小さく聞こえた最初の祝福は、波の音よりも緩やかに寄せて満たされた。
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