「霧」


閉ざしていた思考を浮上させる。ひとつにくくった髪を流しながら振り向けば、金色をぴんぴんと跳ねさせたままの男が笑顔で駆けてくるところだった。


「どうしたんです、キャバッローネ」

「お前に渡したいもんがあって」

「渡したいもの?」


息を乱すことなくそう、と笑った彼は、着ていたジャケットの内側から小さな箱を取り出した。恭しくそれを開け、中に入っていたネックレスのようなものを出す。


「後ろ向いて」

「なんですか?」

「いーから向けって」

「…強引ですねえ」


苦笑して肩をすくめ、後ろ髪が前にくるようにしながら彼に背を向ける。ふんふんと鼻唄を奏でながら、彼の心地よい腕が僕の首回りを囲いこみ、そこにちゃら、とチェーンをさげた。時折触れる熱がくすぐったい。

しばらく後ろで苦戦していた手のひらが、できた!という声と共に首もとをたたくのを聞いて、髪を後ろにはらいながらまた振り返った。


「…どうです?」

「うん、やっぱ霧には銀が似合うな。可愛いよ」

「ありがとうございます。それで?」


ひとり満足そうに笑う彼に、呆れ混じりに聞いてやる。ん?と不思議そうに首を傾けた彼は、僕がチェーンの先に下がったプレートをかちん、と爪で弾いたのを見て、ああ、と悪戯っ子みたいな顔をしていった。


「んー…俺のココロ、みたいなもん」

「…なんです、それ」

「ドッグタグ。知らない?」


ドッグタグ、呟いた。薄っぺらなそれをつまんでも、そこになんと彫られているのかはわからない。



「俺の体が朽ちようとも、魂はお前と共にあれるよう」



なんてな、といって笑った貴方が。




僕にはとても、まぶしかった。




















追憶に捧ぐ
(あれ骸、それ何?)
(?なにかいいましたか、ディーノ?)
(これ、…ドッグタグ?)
(…ああ。お守りです)
(へえ、何の)
(…永遠を願うための、…ですかね)







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