ペンギンの笑顔が好きだな、と思う。

作業用の机にかけて海図を広げてる、その横顔をじっと見つめる。ペンギンは作業の間も表情を動かすことはあまりない。おれだったら料理中でも疲れたなーとかここ分かんないなーとか、感情がすぐ表に出るんだけど。ペンギンはすごい。

「…どうした」
「ん?」
「暇なのか」

さっきからずっとそこにいるから。呟くように言われた言葉にちょっとだけ考えて、あ、という声とともに自分の顔がものすごく熱くなったのを感じた。感情としてはひとつ。ば、ばれてたー。いやそりゃすぐ横にいるんだからばれてるもなにもないけど、なんていうか、なに、これ。恥ずかしい。

「ご……ごめん」
「何かしたのか?」
「いや…その、ずっと見てたし」
「おれは嫌だとは言ってない」
「へ」

恥ずかしくて逸らしていた視線を戻すと、ペンギンはなぜだか拗ねたような表情でペン先で机をこつこつと叩いていた。突然表情が見えたみたいで動揺する。ていうかなんで拗ねてんの。ペンギンかわいい。…じゃなくて。

「…ペンギンの」
「…うん」
「笑顔が、好きだなーと、思って」
「笑顔?」
「うん」

へら。もうどうにでもなれと思って力のぬけた笑みでペンギンを見たら、ペンギンは少し考えるような顔をして、それからふい、とおれから視線を外してしまった。というかあっち向いちゃった。なにおれなんかしたか。

ペンギン、と呼びかけて、おれは気づいた。向こうを向いてしまったペンギンの、帽子の下からのぞく首元が、…なんか真っ赤になっている。熱でもありそうな勢い。ここでお前大丈夫?なんて聞けたらおれは勇者なんだろうが、生憎そこまで初心でも鈍感でもなかった。おれも俯く。そのままの勢いで丸くなった。オンザソファー。お前ふざけんなよまじで。

「お前、照れるなら、もう少し素直に照れてくんない」
「うるさい。照れてない」
「意地はんなばかぺん」
「……照れてない」

もうなんで言い合ってるのか分からないくらい訳わかんなくなった空気の中で、椅子の足がかたりと音をたてた。内心ほおおなんて奇声を発しているおれには些細な音だったのだが、その次に聞こえた足音は思わずがばっと顔をあげるくらいには大きく響いた。

抱きしめられたのに一瞬気づかなかったのは、ペンギンの顔が見えなかったから。

「…ペーンギン」
「照れてない」
「それはもういいって」
「照れたのはお前が先だろ」
「まだ言うか」
「何回でも言ってやる」

帽子ごと髪をひっぱって、無理矢理顔をあげさせた。まだ赤くなった名残がある。勝ち誇った顔で笑ってやったら、むっと眉間にしわがよった。いきなり子供っぽくなったペンギンがおかしくてしょうがなかったけど、そういう意味で笑ったらもっと拗ねるんだろうなと思った。それがもうおかしい。

「…何を笑ってる」
「別に?」
「……かわいくない」
「ペンギンはかわいいよ」
「うるさい」
「じゃあペンギンがもっと喋って」
「………」

眉間と唇にキスをして、それから全身で抱きついた。うはは。たまにはおれが主導権を握るときもあるらしい。呆れたようにぽんぽんと背中を叩かれる。それから少しして、得意げになったおれの耳に、ペンギンの「…おれも、キャスの笑顔が好きだ」と苦笑したような声が届いた。






TITLE:いつか消えます
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テーマ「人外ファンタジー」
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