「君は」

ことりと首をかしげ、君は心底不思議そうだと言いたげな表情の目を瞬かせた。表情そのものは変わらない。いつもみたく、僕をバカにでもするような上目使いで言葉をついだ。

「些か、短慮にすぎるようだね」
「はあ。…それはどう、」
「意味のないことをしてばかりだといっているんだよ。君は逐一説明を受けないと行動できないのかい? それともマニュアルがないと途方に暮れてしまうのかい? なるほどそれは、とてもとても日本人らしい」

アインシュタインが地動説を発見したとき、というよりはそれを発表されたときの学会研究者たちのような驚きで、君はなるほどふむふむと呟いた。僕は僕自身に対する評価が刻一刻と(いうか劇的に?)マイナス方面に向かっていることをひしひしと感じながら、ただ僕のことを罵倒し続ける君をぼんやりと眺めていた。君の言葉は続く。

「些かといったのも短慮だといったのも、わたしのささやかな優しさにすぎないわけだ。それなのに君はその空っぽな頭をかしげてナゼナニと繰り返すばかり。浅慮だね。分かるかい? 実に浅はかだといったのさ。分かるだろう? 中身もない頭を使えということはしないさ、ただ君が、そのおが屑やら石ころが詰まってばかりのそれを、もう少し有意義に利用したらどうだいといったくらいで。他にはなんの意味もないね。分かるだろう?」

君はそこでいったん言葉を切った。ようやく僕が口を挟めるようになったのかとは思ったが、僕の側からの弁明はなにもない。君は恨めしそうな目で僕を見た。かなしそうなさみしそうな、それでいて僕を嘲るような。必然的に沈黙が流れた。

「…君は浅はかだ」

絞りだすような、というよりは、つい漏れでたように君は言った。両手で顔を覆う。

僕はただ一言、ごめんと呟いたきりだった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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