※「どこまでも〜」のペンギンとオウギ





作られた道をまっすぐに歩く。おれたちが見るのは原住民の規則だとか罠だとか、ローが上陸した時に邪魔になりそうな類のものだ。除去できるものなら除いておくし、対応が難しければ回避方法を探しておく。常に斥候として動くキャスケットとサラワのペアはより危険な道を行ったので、こちらはおそらくはそう危険なことはないだろうと推測する。道がある、それだけがかなり重要な情報になる。

隣を歩くオウギを盗み見る。普段オウギは船の整備ばかりで、片やおれは航海士としての仕事があって、こうして組になるのは珍しかった。慣れない、とは違う。けれど、ふたりきりになるとまた違うものだな、と思う。

「ペンペンペーン」
「…ひとつ多いしペンペンって呼ぶな。なんだ」
「道ってここ真っ直ぐ行くだけなん?」
「そう。端まで行って、問題なければ船に戻る」
「フーン。つまんないのな」

そういったオウギはいつの間にか持ち出したドライバーを片手に回しながら、それとなく周囲を観察し始めた。うちの船には手癖が悪いというか、落ち着かないやつが多い。頭も悪いな、と多々思うけれど、これに関しては特に気にならなかった。別段、海賊をやるのに問題があるわけじゃない。適材適所を絵に描いたような船だと思う。

しばらくお互い無言で歩いて、オウギが「なあ、」沈黙に飽いたようにおれを呼んだ。振り向いた先、ドライバーは今や回転だけでなく宙を舞っている。ちょっとは落ち着け。

「なんだよ」
「ペンってさーいっつもさー」
「…もっとサクサク言ってくれ」
「部屋にこもって本とか読んでんじゃん。あれ楽しい?」
「突拍子もない質問だな」
「とっぴょーし?」
「突然、しかも思いもかけない質問だな」
「おお。なるほど」

ペンは頭いいな、少しだけ揶揄するような表情で言う。オウギが本気で言っているわけではないことを知っているから、「そう。お勉強だけはよくできるんだ」おれも半ば冗談で返した。無表情なおれに冗談は似合わないとキャスあたりはよく言うが、わざわざ笑って言うようなものでもないだろう。

「楽しい楽しくないで勉強をしたことはないけど、…そうだな、強いていうなら、知らないことを知るのは興味深い」
「ふーん。おれは自分の知りたいことにしか興味ないけど」
「それもいいんじゃないか。おれは必要なものが分からないから、とりあえず手当り次第に本を読む。オウギは、自分の必要なものが分かっている。だから船を見る。それだけのことだろ」

言ったところで、小さな集落に出た。頭の中に地図を描く。どうやらこの島は、ほぼ円形の島の真ん中に集落があって、それを貫くように大通りがあり、あとは森だけが茂っている島であるらしいことが分かる。集落にはいくつか家が建っていた。人の姿は今のところ見えないが、農園があるようにも見えない。

「誰もいないんかね?」
「そうみたいだな。周囲には罠も無さそうだ」
「偉大なる航路の通路にあって、海賊もしょっちゅうやってきて、それでこんなに無防備なもんかな……」

オウギがぶつぶつと周囲を観察する。全く違う環境で育ったもの同士、見る世界の形状が違うことも承知している。木の様子やツルの巻き方、……見たこともない、というのはこの海では日常だ。

「……ペンペン」
「どうした」
「像がある。あの向こう」

指差した先に、小さな祠があった。その中に佇む像。ほっそりとした木彫りの像に、何か分からないもので装飾がしてある。その像は少し古びていると感じたが、祠はしっかりと清潔に保たれていた。そういえばこの島には、大型の生物の声もしない。

「信仰があるんだ……」

オウギがぼんやりと呟いた。神はいない、でも信仰はある、信仰が人を救うんだ。口癖のように言うオウギ自身にも、彼が信じる信仰があった。そのため、同じく信仰を持つ人に対して、オウギはとても友好的だ。この島はどうあれ、信仰によって守られている。

「海賊が入れるような場所じゃないかな」
「んなもん関係ねえよ。おれたちだって、海に守られて海賊やってんだ。それが信仰になるんだから、みんな同じなんだよ」
「……見ていくか?」

うずうずとしているようなオウギにそういえば、オウギはひとつ頷いて、…それから俯いた。考えるようにぶつぶつと呟く。手のひらをツナギでぬぐって、またそっと祠を見た。バンダナに隠れそうなほどの目が、光を宿して瞬きをする。

「一度船に戻ろう。キャプに伝えないと」
「了解。サラワたちの話も聞かないといけないしな」
「うん」

集落から少し離れた場所を迂回して、逆側の道も端までたどった。予想通り向こう側の道には何もなく、その集落はそこだけで完結しているらしい。いるかどうかも分からないが、原住民は姿を見せない。警戒こそしても、それを怪しいとはもう思えなかった。

たどった道をまた戻る。途中でまた祠が見えて、その像に向かってオウギが静かに目を閉じた。すぐに開いたその表情は、船に触れているときと何ら変わりない、静かな興奮に満ちていた。半ば走るようにして船に向かう、その黄色い船体が見えたところでオウギがまたおれを呼ぶ。なあ。

「同じ信仰に会うなら、おれも信仰と一緒じゃないとな」

照れたように笑う、その向こうに確かな光があった。







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