▼酒場にて


「ぷっはー! 久しぶりの普通の酒ー!!」
「うんめーなオイ!!」

オウギと付き合わせたジョッキをお互い飲み干して、空になったそれもガツガツぶつけて上陸を祝う。酒場の中は無法者であふれていて、それでもなお活気と喜色で彩られる。木張りの壁には賞金首の張り紙がところ狭しと貼られまくり、その薄暗さで店の中は一層華やいでいた(もちろん海賊的な意味で)。

「買い出し班じゃなくてよかったねー」
「当然だろー。前の島でどんだけやったと思ってやがる」
「普段のこと考えるととんとんどころかマイナスだけどね」
「はっはっは」
「へっへっへ」

抱えたジョッキが砕けそうなくらいの勢いでカウンターに叩きつける。

「おっちゃんもう一杯ー!!」
「あっ、おれもおれもー!!」

カウンターの中にいるおっちゃんに酒を注ぎ足してもらって、もう一度乾杯して今度はちょっとずつ飲む。酒の一気飲みは命に関わるとかなんとかで、本当は船長に禁止されているのだ。オウギはお酒あんまり強くないし。でもまあ、最初の一杯くらいはってことで。

久しぶりに揺れない地面とおいしいお酒を楽しみながら、壁に貼られた手配書を眺める。見たことある海賊もいれば見たこともない海賊もいて、おれには真新しすぎて面白い。端から端まで眺めて、おれは気づいて声をあげる。

「オウギオウギ!」
「んあ? なんだよ」
「あれ!! 船長!!」
「お?」

おれの指差した先、いつかの日に軍艦を追い払った時の写真が貼られたうちの船長の手配書があった。返り血を笑いながら舐める船長の、全体的になんかヤバそうな雰囲気の写真。さすがは"死の外科医"。あれで医者だというんだから、うちの船長は本当に規格外だ。色んな意味で。

「船長かっけーなー!!」
「すげーなキャプはー。ペンのはねェのか?」
「探してみよっか」
「ついでにひげでも書いてってやろうぜ」
「それケッサク!!」

二人してカウンターを降りて、壁を前にしてジョッキを傾ける。その背に手が置かれたのは、おれがペンギンの手配書を見つけるのと同時だった。







▼広場にて


偶然入った本屋で見つけた興味深い書籍を抱え、おれとサラワは広場の中央噴水を訪れていた。小さな遺跡を見に行くといったロニーを待つためだ。サラワはどこかの木材店で良い木を見つけたらしく、船に帰ったら彫って笛にするんだとにこにこしながら噴水の側のベンチに座っている。人を待つ、こんな時間は悪くない。

「平和な島ですねえ」
「そうだな。海軍の駐屯地もあるらしいが、そう目立たなければ追われることもないだろ。…海賊がやたらといるっていうのに、平和なことだ」
「こういう島ばっかりだと良いんですけど」

買ったばかりの小さな棒がついた飴を舌の上で弄ぶ。それはどこか懐かしい、あまい杏の匂いがした。噴水は時たま大きく水を跳ね上げ、まるで海のように永遠に流れていく。初めて見る景色はいつも色鮮やかだ。

「航海士さんは何を入手されたんです?」
「海水についての研究と、あとは天気の本なんか。大体が海図の参考書だな」
「熱心ですねー」
「サラワは、その木以外には何を買ったんだ」
「僕はですね」

ふふ、楽しそうに笑いながら、ツナギのポケットから小さな袋を取り出すサラワ。目の前に見せられたのは、小さな木彫りのクマだった。なぜか首回りに、もふもふと綿がついている。意外に繊細なつくりのそれ。

「船長さんへのお土産です」
「…なるほど。確かに船長が好きそうなクマだな」
「そうでしょうそうでしょう。戦闘員さんにも似てますしね、ふふ」
「ベポは今頃船長と昼寝中だな」
「かわいいですよねぇ」

良い買い物しました、サラワは今までになく上機嫌に足を組み替えた。何事もなく島を出られることはそうあるわけじゃない。おれたちだって別に戦うことそれ自体が好きな海賊ではなかったので、記録指針を見ながらこのままならすぐ出航できるな、とおれも気分が良くなった。

ちょうど人ごみの向こうにロニーが見えて、手に本を何冊か抱えているのを見て笑ってしまった。同じ店にいたなら一緒に来れば良かったかな、思いながら手をあげる。ロニーが無反応だったのでサラワと首を傾げたが、気にせず荷物を抱えて立ち上がった。船に戻るにはいい頃合いだろう。

「ロニー、お疲れ。用はすんだか」

近づくにつれ、ロニーの顔色があまり良くないことに気づく。調子でも悪いのか、もう一度声をかけようとした矢先、ロニーが苦々しい表情で呟いた。「…あの、申し訳ございません」長身の後ろから姿を現したのは、








▼合流



「手配書見て二人で騒いでたら目ェつけられて、さんざんからかわれたんでちょっとイラッときて、でも船長とペンギンが暴れんなっていうんで大人しくしてました。そのまま行ってくれるかなって思いながら酒飲んだりしてたんですけど、あいつらなんか調子にのってて、酒ぶっかけてくるわ小突いてくるわ笑いまくりでなんかオウギの機嫌とかちょう悪くなるし、なんかさい、さいご、は、あいつらせんちょのこと、ぜ、ぜんぜんぱっ、と、しねえとか、すぐしんじまうとかそういう――だから、」

「サラワと待機していたら、ロニーに拳銃向けながら脅しをかけてくるどこかの海賊のクルーに遭遇した。事情を聞いたらいわく、そいつらの船長とうちの船長と一騎打ちがしたいとかなんとか。うちにそんな暇はないと返答、拒否した腹いせにとロニーに二発発砲。すぐさまサラワが応戦、おれも加わってまあ所謂大乱闘に発展。騒ぎを聞きつけて集まってきた海賊共を蹴散らして、最初の海賊共を一掃、したところでおれの素性がバレた。賞金稼ぎも乱闘に加わる。とりあえず、所々船長に対する暴言、中傷が耳に入ったので」


「"全員バラして逃げてきました"」


四人の声とロニーの謝罪がすっかりかぶる。船に戻ってきたおれたちを見る船長は、寝起きだからか目が据わっていた。船長こわい。おれとオウギは酒場を半壊させて逃げ出してきたが、まさかペンギンたちの方もそうなっていたとは。

船長はガキみたいな約束も守れずに戻ってきたおれたちに言葉もないようで、片手で頭を支えながらもうため息もつかなかった。て、てへ。とかいっても多分なんのフォローにもならないだろうけども!

「……で、海軍は」
「もうじき艦隊でくるそうです」

ペンギンが答えるのと同時、外から大砲を打つような爆音がした。わあ、平和な島のくせに海軍の対応が早い。むしろだから治安がいいのか。

ベポに全力で抱きついて黙り込んでしまった船長の背中を見ながら、平和ってすぐ終わっちゃうなあなんて他人事のように思っていたおれだった。というか多分、他の三人も。


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