帰り道。ふわふわと漂うような疲労感をつれて、ゆうらりゆうらりと帰路を行く。駅まではおよそ10分ちょい。その間を、喋ったり黙ったりしながら歩いていくのだ。日によって面子は違うけれど、となりを行くのはいつも同じだった。わがままじみた、ある意味での独占欲。

「あ」
「ん?」

突然声を上げた横顔をちらりと見る。彼女は少し戸惑ったような、それでいて困ったような顔をして鞄から携帯を取り出した。短い文章を打ち込んで、伺うようにしてこちらに向ける。

『帰り道同じ』

その一文。「…ああ」呟いた。そこで初めて後ろの声に意識が向いた。基本的に他人のことが嫌いだといって憚らない自分だが、取り分け嫌いな部類というのが存在する。そのカテゴリにおさまる人間が、偶然自分と帰り方がほぼ同じだった。単純計算でも1時間は同じだ。彼女は自分を、過剰だといっていいほどに心配してくれる。

「大丈夫だよ。『本屋寄るから』」

後半は同じように携帯に打ち込んだ。彼女は心配そうにこちらを見、それから「そっか」と携帯をしまい込んだ。

「…すごいね」
「ん? 何が」
「わたし、嫌いなひとの前じゃ笑えないよ」
「…どっちかっていうと反射なんだけど」

嫌いなひとを目の前にすると、反射的に笑みが出る。睨みつけるよりも笑顔の方が、相手のことを過剰に認識しなくて済む。わざわざ意識するのはこちらばかりが消耗する。他人を嫌うと思ったときから、自分はそうやって自分を守ってきた。嫌いでいい。だからこそ、表に出さないと決めた。

夜の帳がおりた川辺を行く。今日あったことを話し出した彼女に笑いかけながら、足下に落ちていた石をこつりと蹴飛ばした。


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