船長室の丸窓から、甲板にいるクルーたちをぼんやりと見る。モップを抱えて甲板掃除中のキャスケットに、ベポが何やら楽しそうに話しかけている。キャスケットはこの船では新人の部類にあたるが、ベポとは兄弟のように仲良しだ。それもベポの方が年下に見える。それも当然の話だ。キャスケットはまだ20前だと言っていたが、ベポはそれよりも若い。なぜなら白くまだからだ。今日もおれのクルーはかわいい。

ちょうどその横をロニーが通りがかって、はしゃぐ二人に挟まれて作業を中断させられている。ついさっき「船長の書物をお借りしてもよろしいかな」と楽しそうにいって来たのを思い出す。きっとあの本たちは、ロニーに読んでもらえるまであと数時間はかかるだろう。ロニーは気の毒だが、クルーの中では面倒見のいいお祖父ちゃんポストになっているあいつのことだ。すぐにあいつらの相手をするようになる。

船長室のすぐ真下の空間で、オウギが釘を打つ音が響く。柱に傷がついたのを塞ぐから少しうるさくなると申し訳なさそうにしていたけれど、この音も馴染めば悪くない。コハリは甲板で昼寝中だから、小さい音しかしないのがむしろ残念なくらいだ。

「船長さん、失礼しますよ」
「サラワか。どうした」
「ちょっとしたお誘いです」

こつこつと控えめなノックに声だけを返せば、平たい帽子からウェーブのかかった髪をなびかせる、クルーの中では珍しく落ち着いた方の男が入ってきた。誘いだというサラワを振り返れば、腰に差している横笛をとん、と叩く。音楽家であるサラワの指先は、いつみても綺麗に整えてある。

「甲板に集まっているのをご覧に?」
「ああ。暇ならお前も混ざってこい」
「おや、…これはこれは。カメラを航海士さんに持っていかれてしまったのは惜しいですね、ふふ」
「分かってんなら取り返してくるくらいしろ、サラワ」
「ご冗談を。航海士さんに物を申せるほど、僕は偉いわけじゃない」

おれの嫌いな"謙虚"な言葉を吐くサラワ。じっとりと睨めばにっこりと笑う、それがあの腐れ縁の男とどこか似ていて、…どちらにしろおれは突き放すことはできない、と思う。音楽家の癖に食えねェ男。

「誘いってのはなんだ」
「ああ、…僕としたことが。先程料理人さんに一曲頼まれたところでしてね。船長さんもお呼びしたらどうか、と」
「……それだけか」

それだけです、真っ白な笑みでサラワが言う。窓の向こうに視線を返せば、気づいたロニーがぺこりと頭を下げた。細めた目が柔らかい。同じタイミングで気づいたらしいベポとキャスケットがぶんぶんと手を振って何か叫びだして、それをロニーが苦笑しながらなだめている。この騒ぎではそのうちコハリも起きだしてきそうだ。

長い指で帽子を押さえ、サラワがではお先に、と扉から出ていく。丸窓の中に戻っていったサラワが、その向こうからやってきたペンギンと顔を合わせて笑っていた。あいつのことだ、どうせ思いだし笑いに決まっている。

立てかけておいた刀をなぞって、一度だけつばを弾いて戻す。腕に巻きつく刺青が、同じように光を反射した。目を閉じる。

「キャプテン、早く行こうよ!!」

我慢できずに飛び込んできたベポのあたたかさに、おれはためらうことなく目を開いた。







TITLE:宇宙の端っこで君に捧ぐ
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