すれ違い様、茶にまみれた腕をつかんだ。マウンドをおりた彼はとても小さく見える。一拍おいてから、彼はゆるりと振り返った。光をうつさない影。陰。
好きだったと、それだけを呟いた。
「…そう」
感情に波ひとつたてず、するりと手をぬけて彼は去っていった。淡い恋の終わりにしてはあまりにも呆気ない。彼は挑み、そして負けたのだ。たった一度の季節、全ての球児たちが集い焦がれるこの場所で。勇敢さは勝利になんの影響も及ぼさない。未だ続くエールに、聞き知らない校名がにじんではとける。
どこまでも抜けるような青空は、決して微笑まざる悪魔のような陽射しでグラウンドを見つめていた。