からからから。自転車の力に引きずられるように、リアカーの車輪が地を噛んで進む。

前方で汗をぬぐいながら自転車を漕ぐ背中を見て、随分広くなったな、と唐突に思った。出会ったばかりの頃はもう少し小さかったように思う。成長期を誇るにしてはそう劇的なものではないけれど。


「真ちゃん?」


意識をぼんやりとさせてしまったオレを、高尾が不思議そうな表情で振り向き見た。幾度か瞬きをする。運転中故にすぐ前を向いてしまったが、その背中はどこか心配だとでも言いたげだ。

置くように何でもないと言って目を閉じる。早く行かなければ朝練が始まってしまうが、オレが乗っている状態でそんなヘマをするようなこいつでもない。まだ日が強く肌を焼く代わりに、抜ける風は随分と涼しくなった。からからから。何度聞いても慣れなかった車輪の音も、今では耳に心地よかった。


「真ちゃん」

「なんだ」

「んーん。なんでもない」

「…そうか」

「真ちゃんは?」

「何でもない、と言ったのだよ」

「そーいえばそうだな」


高尾が車輪の音のように軽快に笑う。この荷台から見える景色はいつも同じだった。聞こえる声もいつも同じだった。それが当たり前だと、…そう感じられるようになったのは、やはりこいつの努力の賜物なのだろう。


「…ただ、」


何かを待っているような空気に、渋々ながら口を開いた。うん、分かっている風に高尾が頷く、その背中をそっと見る。クローバーの置物を撫で、左手に巻かれた包帯をぼんやりと眺めて。


「…こういうのも、悪くないな」


風が吹いて高尾の黒い前髪が舞い上がる。坂道にかかって力を込めた、その合間に青空を見つけて手を伸ばす。その背に触れる直前、そうだと思った、とまた高尾がからからと笑った。




永遠に続く
(穏やかに響く、今。)


TITLE:PROBABLY!
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -