「…必然性が欲しいんだよな」

 かちゃかちゃとボタンを押す音だけが響いていた教室に、不意にぽつりと呟きが零れ落ちた。顔を上げたのはひとり。つまり、オレだけ。

 手の中の身代わりを避難させてから、少しだけ首を傾げて佐治を見た。佐治は体勢を変えないまま、でもさっきよりは少し妙な表情でゲーム画面に目を落としている。へんなかお、と思った。声に出すと怒られるから、それはオレだけの秘密にして、隣で無反応のまま斧を振り回しているくるくる茶髪の肩をつついた。

「倉橋ぃー、佐治がまた変なこと考えてんよ」
「んあ?」

 倉橋の頭がぴょこんと持ちあがる。オレの顔を見て、佐治の顔を見て、……ほんとに今の、聞こえてなかったんか。何か珍しい感じだ。

「どったの、佐治」
「…ンでもねェよ」

 佐治は随分と落ち込んだような声でそう答えた。倉橋はふたつほどぱちぱちと瞬きをして、それから佐治がそうなら聞かねぇけど、とまた画面に視線を戻す。その間、ずっと手は動いたままだった。器用なやつ。

 結構あっさりとひくもんだなと、オレも自分の身代わりを走らせる。ボウガンを構えて、撃つ。上手く刺さるとおお、と思う。オレはそんなにゲームが上手い方ではないので、こうして団体戦をするときは専ら後方支援だった。倉橋は割と勢いで戦うタイプだが、森川は集中すると無言で相手を追い詰める頭脳派タイプだ。オレたちが組むと、たいていのことは上手くいくようになっている。それが若さなんかな。自分の思考にちょっとジジくさかったかも、と笑みがこぼれた。

「…何か面白いものでもあった」
「ん? んにゃ、特に」
「とうとう月村もオレの横顔に見惚れるようになったか」
「とうとう森川も妄想と現実の区別がつかんようになったか…」

 ボウガンの散弾で森川の身代わりを狙う。瞬間身動きのとれなくなった森川の身代わりが、あたふたと逃げ惑うのを見てハン、と鼻であしらってやった。鬼だ悪魔だとわめいているが無視である。むしろオレがお前に言いたい、なんでお前ってそんなに反省しないんかと。

 そのままゲームを続けていて、また不意に、さっきの佐治の言葉を思い出した。倉橋は少しだけ笑いながら、画面の自分に向かって指示を出し続ける。佐治は何も言わない。倉橋も何も言わない。オレは思わず、小さな声で倉橋、と呼んだ。

「ん?」
「…や。さっきの、どういう意味だったんかなって」
「さっきの? って――…ああ、そ、れね、」

 おお、相手の攻撃に感心しながら、倉橋は楽しそうに笑みを深くした。佐治の方から冷たい風が吹いているような気がするが、きっと気のせいだ。

「多分、オレのこと、もっと好きになりたいって意味じゃね」

 オレの視界の端から繰り出された拳で、リアルワールドの倉橋がぶっとぶ。ついでにバーチャルワールドの倉橋も、敵の尻尾で撃沈した。


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テーマ「人外ファンタジー」
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