ガードレールに腰かけて煙草をくゆらせていたら、目の前の自動ドアが滑らかに開いて足元のコンクリートに光をまき散らした。それほど待っていたようには思わなかったが、右手に握っていた紅茶の缶はすっかり冷めきっている。目に映るのは安っぽいラベルにコンビニのテープ。それに舌打ちをして、残っていた分を一気に飲みきってからドアをくぐった影に思い切り投げつけてやった。クソ野郎、忌々しく睨んでも、そいつは飄々とした笑みを崩すこともない。

「随分待たせちゃったか。悪い」
「…テメェを待ってたわけじゃねェよ」
「そう? じゃ、待ち人来たるまで、心ゆくまで体を冷やしな」
「し、…ね!」

 フィルターを噛みちぎってしまいそうなほど奥歯をかみしめ、髑髏の指輪が光る右手で思い切り殴りつけた。おっと、なんていいながら、鞄を持った方の手で軽く止められる。ぎり、自分でも分かるほど軋んだ音がした。こめるものは殺意と憎悪と、それからいくばくかの理性のかけら。つまりは、こいつがとりあえずは人類であるとか、そういう類の。

「んーなにカリカリすんなよ」
「テメェが死ねば万事解決すんだよ、クソ天パ」
「様々な要因によって構成されている事実をたったひとつ変えるだけで改善しようなんていう思考が、つまりはお前の愚かさだ」
「偉そうに講釈たれんな、ボケが!」
「いやー、若いっていいなー」

 それは重ねるような愚かさの上塗りで、掴みかかったオレの左手はいとも簡単にヤツの右手に吸い込まれた。反射的に引く。その勢いすらも意味をなさないまま、くるっと回転したオレはそのまま地に叩きつけられた。息が、つま、る。このクソ野郎!

「はーい、試合終了ー」
「っ、…なせボケ! クソ野郎!」
「ぴよぴよ鳴くのもいいけどね、オレも仕事あがりだから。あんまり遊んであげらんねーのよ」
「クソッ、この…!」
「雪哉」

 ぼそり。ただでさえ低い声が、耳の奥に深く重く、痛く響く。

「…このままオレに拉致監禁されるのと、一緒に飯食って普通にお持ち帰りされるの。どっちがいい?」
「――…………メシ」

 雪は良い子だなあ、白々しい声が楽しそうに笑いながら、オレのくわえていた煙草をさりげなく踏み消した。


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