ふと目に入ったその水玉模様が無性に気になった。その辺にいる女子中学生や高校生がしていても何の違和感も抱かないそれが、今は目の前の、男子高校生の頭に収まっている。特に意味もなく、なんだアレ、と思った。気になるというのはそういうことだ。

「京介」
「ん?どったのユーシちゃん」
「その、…なんだ。個性的な髪留めだな、と」
「これ?」

読んでいた雑誌から顔をあげて、手で触れることなく頭を振って尻尾を揺らす。尻尾の付け根で散っていた水玉は、何か特殊な飾りでもあるのか光を弾いてきらきらと瞬いた。萌葱色の京介の髪には唐紅がよく似合っている。ざっくりといえば緑と赤で、それだけいえば少し季節外れのお祭りのようにも見えてしまうけれど、それもそれで京介らしい。

「これ、シュシュっていうんだって。オンナノコ的にはおしゃれの一部らしいよ」
「へえ。髪ゴムってわけじゃねェんだ?」
「んにゃ、中にゴム入ってて見えないだけ」

二重にしてあるそれに指をひっかけて伸ばし、離すとぱちん、とゴム特有の音がした。確かに髪ゴムではあるらしい。女子は大変だなと素直に返したら、突然京介が何か思いついたように不思議な笑い方をした。にまぁというかにやぁというか。表現し難いその表情は、オレにとっては嫌な予感そのもののような。

「ユーシちゃん」
「…何かな」
「ユーシちゃんも結んであげよっか」
「オレはそういう髪飾りの適齢期を随分過ぎたような気がするけどオレの気のせいだったか?」
「萌え要素には適齢期なんて関係ないし!ユーシちゃん美人だから全然いけるよ!」
「その訳分かんねェ思考回路にオレを巻き込むな!」

運動部の高校生の標準的な重さに獲物を狙い撃つ猛禽類のように飛びかかられて、正直いい年のオレが支えきるなんて不可能なわけで、…要するに、二人して後ろへひっくり返った。ソファでもなければオレの後頭部はかなりのダメージを負ったはずである。そこのところは考えてやっているのだろうが、この若々しさを丸ごとぶつけてくるにはいささかというかかなりの無謀であると言わざるを得ない。

「そんなの2秒で切り換えてよ」
「…切り換えられねェ現実もあんだよ」
「んじゃ、オレが切り換えさせてあげよっか」

腹の上でにこりと笑う。ガキのくせにとよぎったその一言で、自分が随分と動揺しているのが分かった。表面には出さない。意地みたいなもの。

大人をなめんなと言いかけた声は音を成さずに飲み込まれ、視界の端、その向こうで、唐紅がきらりと笑った。
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