※京介と吏人



「ちゃあーす、天谷くんいますかー」

部活も終わった放課後、夕日に照らされるグラウンドに堂々と入り込んできた侵入者が手をあげながらそう聞いた。緑のジャージに緑基調の派手な髪。結った髪は風になびいて、いわゆる「男らしくない」出で立ちを隠しもしないその男を、知らないとは言えない事情があった。

「あ、なんだいんじゃん。部活オツカレサマ」
「…どうも。今日は何の用ですか」
「いつになくつれないねーりっちゃん」
「吏人です」

返す言葉にニヤつかれても、あまり腹のたたないあけっぴろげな笑みだった。どちらかといえばつい心を許してしまいたくなる柔らかな笑み。本心を隠していることだけはバレバレなのに、その実態は決してつかませない。つかみどころのない人だ、と思った。

「りっちゃん、これから飯でもど?軽いのならオゴんよ」
「吏人です。…別に構いませんけど、オレけっこー食いますよ」
「男子高校生の平均所持金考えて食ってね。オレ食い逃げとかしたらヤバいからね」
「そしたら先輩が皿洗いすればいいんスよ」
「うわー何か美織ちゃんみたいなこと言ってるー」

焦ったような表情の奥で、笑った目が内心の余裕を見せてくる。こういう類の人間は好きではなかった。否応なしにアイツの瞳を思い出す。

「最近ユーシちゃんに連絡とかしてあげてる?」
「…もうずっとしてないス。連絡先も知らないんで」
「あ、そっか」

不意に出された名前に少しだけ心が怯んだ。はっきりとは言わない癖に関係を匂わせるだけで、それでいてオレの反応を見て得意そうにするわけでもない。ただニコ、と笑って、なら仕方ないねと言うばかりで。

ポケットに手を入れて、「着替え待ってるから終わったら裏門おいでよ」屈託なくいう。その表情はオレがいくら覗きこんだところで、表面一枚すら剥がせる気がしなかった。穿ちすぎ、なのだろうか。そうだ、と人差し指を立てた、その声も。

「今度さ、休みの日でも、一緒にサッカーしねえ?」
「サッカー、スか。二人で?」
「んー、オレとしてはどっちでもいいけど…ちゃんとミニゲームすんならそっちで誘ってもいいし。私帝のヤツらでいーならすぐ集まるよ。それとも全部そっちメンツにする?」
「いえ。…じゃあ、半々にしましょう。オレも誘ってみます」
「オッケ」

約束な、出された拳に自分の拳をあて返す。踏み込むタイミングは悪くはない。何回もここを訪れておきながら、プライベートに誘われたのはこれが最初だった。その真意がどうであろうとオレには知る由もないが、考えても仕方のないことなのだろう。思考を2秒で切り返して、じゃあ後で、と背を向けた。

「あ、そーだ」
「なんですか」
「りっちゃん、食いもん何が好き?」
「吏人です。…食べ物ですか」

先ほどよりも少しあいた距離。その向こうで、淡い深緑の髪が揺れる。

「…スパゲッティとか」

好きですというには少し気恥ずかしかったのでそう答えれば、深緑はただ、好み変わってないんだねと嬉しそうに微笑んだ。
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