時折ぼんやりと、複雑そうな表情でどこかを見ている森川に気づくことがある。視線をたどると、そこにはいつも佐治と倉橋がいた。二人が何をしているかというと、別段特別なことはひとつもない。話をしたり笑いあったり、時折何かを贈りあったり。それだけの二人を見る森川の内心は分からない。それでもなんとなく、二人を見ている森川が寂しそうで、そんな森川を見ているのはあまり好きではなかった。だからオレは、そう多くもない、オレから森川に近づく機会をそこで使う。

「森川」
「……あ、つ…き、むら」
「何、ぼっとしてんの」

はっとしたようにオレを見た森川の、すぐ前の席に腰を落ち着けた。気まずそうに視線をそらす、その意味は分からなかったけれど。

「森川」
「…なに?」
「どーっちだ」

軽く握った拳をふたつ、森川の目の前にことんと置く。手のひらはしっかり握られているから、何が入っているかは相手からは分からない。意味を問うような視線にとぼけるように首をかしげて、少し戸惑うような瞬きと一緒に森川がこっち、と右側の拳をつつくのを笑って見ていた。手のひらを開く。そこにあるのは、何の変哲もない、コンビニで売っているタイプの飴がひとつ。

「飴?」
「ん。森川、レモンの飴とか嫌いか?」
「…ううん。どっちかっていうと、好きかな」
「そか。オレも好きなんよ、こういうの」

あげる、と言ってその手のひらにそれを落とす。森川は飴を見て、オレを見て、小さくありがとうと囁いた。その瞳に寂しさは残らない。どういたしましてと言って笑う、オレに呼応するように森川も表情を崩す。それなら安いものだと思った。

月村のことはもっと好きだよ。そういう森川の声が、オレはとても好きだったから。
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