ぱたぱたと雨が降っていた。

窓際のソファに身を沈めて、目の前の雨を眺めながら後ろからも聞こえる雨の音に耳を澄ます。自分の鼻唄が少しだけ、その雨にまじって部屋に満ちた。雨粒の転がる先を目でたどる。はらはら。ぱたり。手を伸ばして、白く曇った窓にきゅうう〜と絵を描いた。

「ユーシちゃん」

楽しくなって、その横に小さく自分も描く。同じ髪型、同じ場所。どうしても目線が交わらなくて、どうにかならないかとちょんちょんつついて修正を試みる。オレはずっとユーシのことを見てるのに、落書きのユーシは落書きのオレを見てくれない。「…ユーシちゃんのばか」それがなんだかもどかしくて、そのままぐしゃぐしゃと線を消した。曇った窓ガラスの、そこだけ空しく透き通る。それでも向こうはかすみのまま。

「………ユーシィ…」
「呼んだか?」
「!!」

振り返ろうとしたらタイミングを間違えて、そのままソファに背中から落っこちた。後頭部をばふっとぶつけて反射で目を閉じて、くらくらする頭で目を開けたらそこにユーシがいた。逆さまの綺麗な顔。首にタオルをかけてオレを楽しそうにのぞきこむ、いつものずるいユーシの顔。

「…呼んだ」
「そっか」
「ねえ、ユーシちゃん」
「ん?」
「…そんだけ?」

そのまま離れていきそうだったのを、両手でタオルをつかむことで引き止める。眼鏡のないユーシは結構貴重だ。唐突な行動を問うわけでもなく瞬きをしたユーシに、逆さまのままでふにゃり、笑う。

「そんだけだよ。お前こそ」
「うん?」
「そんだけか?」

同じ問いを、違う笑顔で返される。オレの思考はたっぷり2秒停止して、それでも2秒で返ってきた。ソファの肘掛に手をついたユーシの、さらりこぼれる前髪に目を細める。初めて見たときも、そして今もずっと、オレに降り注ぐ光。

引き寄せて口づけた、その唇はなんだか甘い味がした。

「…何か飲んだ?」
「当たり」
「レモネードだ」
「…なんだ京介、お前犬だったのか」
「なんで! 違うし!」

自分の唇をぺろ、と舐めたユーシがちょっと引き気味に言ったそれに、オレは慌てて反論した。否定する意味は自分でもよく分からないけれど、犬、犬…いや、やっぱり犬はちょっと。ユーシの引いた顔は珍しくて面白くはあったけれど。

湯冷めするからさっさと布団入れよ、と今度こそ離れていくユーシの腕を引く。何度離れられても、オレはこうして引き止めてしまうんだろうと思った。それでもユーシが笑ってくれている限り、オレはユーシから離れない。それでいい。

起き上がってもう一度、ちゃんと触れたその熱に、好きと小さく跡を残した。
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