京介がおやつに、と差し入れてくれたチョコ菓子を鞄に入れて、今日の練習でメモをしたノートをいつもの冊子に書き写す作業をしていた。部屋にこもるのは好きではなかったので、家の近所にあるファミリーレストランの隅っこに場所をとる。

普段はこれを一人きりで行うのだが、今日は練習を見に来ていた京介と一緒だった。京介の方も練習の後らしく学校のジャージを着たままでの同席である。正面の顔はオレがノートにばかり構っていても不満はないようで、ニコニコとしながらジュースを飲んだりポテトをかじったりしていた。その顔は年相応に見えて可愛い、といつも思う。

「むお、…ユーシちゃん今笑った?」
「いーや。ポテトでいっぱいのほっぺがリスみてーだなって思っただけ」
「やっぱり笑ったんじゃん! ユーシちゃんのいけず!」
「ごっくんしてから口開けような、京ちゃん」

ぷす、膨らんだ頬を突っついてやる。また子ども扱い!とぷりぷりしながら憤慨する京介を笑ってやってから、またペンを持ってノートに向かった。

側に置いてあるカップからは珈琲の香りが漂ってくる。落ち着く匂い。ただ、味はあまり好みではなかった。昔から家中に満ちていたせいで、この少し苦い匂いに落ち着く習性が出来てしまっていただけのこと。ただ、こうして大人になってみると、最後に飲むカップ一杯分くらいなら美味しいものなのかな、とも思えるようになった。味覚の変化に対する自覚はその程度だ。

京介がまたポテトをつまんでむぐむぐとしながら、少し首をかしげ控えめな声で、ユーシちゃん、とオレを呼んだ。

「どうした?」
「いやさ、…コーヒー、冷めちゃうなーって思って」
「ああ。……猫舌なんだ、実は」
「猫舌―!? ユーシちゃんが! 猫舌! アハハハハ!」

何がツボに入ったのかはよく分からなかったが、突然腹を抱えて笑い出した京介に小皿に乗っていたミルクをビシッと投げつけてやった。「あイタッ!」ミルクの当たった頭をさすりながら、それでも目尻にたまった涙がくっくっと笑うたびに光を反射する。

「あんまり笑ってんなっつーの」
「ごーめんごめん。ちょっとツボったっていうのもあるんだけど」
「そうかよ」
「ユーシちゃんのこと、新しく知れて嬉しいなーと思って」

拗ねないでよ、テーブルにぺたりと腕をつけて、その上に上半身だけで寝転がる。伸ばした腕の先、子どもらしい手のひらが偶然を装ってオレの手に触れた。冷え性気味の自分の手がじわりと熱をうつされて、あたたかい、と素直に思う。手をひかないまま、細められた京介の瞳を見返した。

「ユーシちゃんてチョコ好きでしょ」
「チョコ? おう」

もらったばかりのチョコを入れたポケットにちらりと目をやる。甘いものは摂取するとそれなりに効果をもたらす気がして、まあ悪いとは思わない。

「それから…子どもが好きで、空が好きで、…サッカーが好き」

最後だけ、囁くような声音だった。きゅ、と眉間にしわが寄る。そのまま何も言わずに黙り込んだ京介を見ながら、唐突に、ああこれもきっとそうなのだろう、といつも思うことをまたぼんやりと思った。オレには意味のないことだ。それでもただ、反射的に口を開く。

「…オレは京介のことも好きだよ」


それをお前が望もうと、望むまいと。
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