「お前って、面と向かって愛してるとか言える方」

背中合わせになってカチャカチャとゲーム機をいじる、その揺れになんとなく零してみた。倉橋はオレといる時にはイヤホンはしない。その代わりにゲーム機から漏れる音に文句は言わないこと、と暗黙のうちに了解がある。倉橋にとってはオレの文句もカワイイわがままにしか聞こえないらしいが、多分完全に病気なんだと思う。

「愛?…ちょっと唐突すぎて意味が」
「言えんのか言えねェのかって聞いてんだよ」
「愛してるねー。まあ言えないね。愛とかよく分からんし」
「…ふぅん」

自分から聞いた癖にその答えが気に入らなくて、持っていたクッションで後ろ手に倉橋の頭をぶったたいた。「いて」なんでもない風に受け止めて、何だよとからかうように笑う。気に入らない。

「何拗ねてんだよー」
「別に」

ゲームの邪魔になればいいと思って、寄りかかりついでに頭をごんごんとぶつけてやった。倉橋は肘でどかすわけでも文句を言うでもなく、ただ「愛ってさ」とだけ囁くように呟いた。

「結構重いぜ。割と一方通行になりやすいし」
「…んだ、それ。経験談か」
「ソウデスネー。言って欲しいというなら言うにやぶさかではないけど、それは愛とはちょっと違うんじゃね?みたいな。そんな感じ」

倉橋の手元で、機械が無機質なファンファーレを奏でる。いつもオレ任せだとのたまってみせる倉橋だったけれど、あの集団の中で人一倍物事を考えているのも倉橋だと思っていた。理由は知らない。ただ、こいつが不意にこぼす言葉の端々に、オレが知り得ない何かがあるのは確かだった。

今度は相槌をうたずに、べったりと寄りかかって肩に後ろ頭をのせた。少しだけ傾いた倉橋の頭がこつりとあたる。愛がどうだとか、そんなくだらないことを聞きたかったわけじゃない。理由なんてものを聞かれても困る。そう考えて、実は何もものを考えていないのはオレの方だったんじゃないかと自嘲した。「でもさ、なんつーか」もったいぶるような倉橋の言い方に、壁際のカーテンがさらりと揺れる。

「サッカーしてる雪は好きだよ」
「…してねェオレは嫌いだってことか」
「なんでそうネガティブかな」
「冗談」

オレは、陣のサッカーが好きだ。でもそれを言うのはなんだか違うような気がして、非現実的なエンドロールにかぶせてゆっくりと目を閉じた。

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