好きだと言いたかった。


彼はよくいうお人好しで、こんな僕にさえ優しい言葉をかけるような愚か者だった。身よりのない僕やあの子たちをかくまってあまつさえ部屋を与えて、彼は、そう、悪くいえば八方美人だった(少なくとも僕にとっては)。よくいえば親切でどろどろに優しい彼は僕によく笑いかけた。体調を気遣って近況を聞いて頑張ってるななんて最後には。友人のようだと思われていた。僕はそんなこと望んではいなかったのに。

しばらく会えない時期もあった。それでもなんとなくまた会うようになって、仕事絡みでもなく出かける日もあった。それを許容することに彼は少し不思議がっていたが、それは、やはり僕が彼を好きだったからだ。ずっと好きだった。本当はもっと前から好きだったのかもしれないが、それが依存になってきたのはもう少し後のことだった。彼からもらう言葉のひとつひとつがなきたいほどに嬉しかった。

それなのに(というのもおかしな話だけれど)彼は、僕に色々な相談を持ちかけた。女性に誘われたデートのこと、例えばそれは元知り合いの話であったりしたけれど、僕にとっては知り得るはずもない恋情のこと。彼は自分の魅力を、僕ほど知っているわけではなかったから。困っている彼に僕がいった全てが、僕のためだったと彼はいつ気付くだろうか。

好きだと、いいたかった。でもそれで、この場所をうしなってしまうのが怖かった。彼は同性を好きになること自体に偏見はなかった。けれど、彼自身は?僕が好きだといったその一言で、この関係が壊れてしまうかもしれないことが何よりも怖かった。彼に拒絶されるのが怖かった。彼に僕が異質だと、そう思われることが怖かった。だから何もいえなかった。口を閉ざした。くすぶる想いにはふたをした。それでいいと、言い聞かせた。



届くはずのない想いを抱える自分が、ひどくみじめだった。
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