※でのむくとごくはる
どうしましょうハルはどうしたらいいんですか。そんな言葉と一緒に駆け込んできた彼女に、僕は紅茶とお茶請けを出したところで黙り込んだ。僕が思うのは過去の自分。失礼だと思われるかもしれないが、それは思わず笑ってしまいそうなものだ。必死なまでに恋をする、不器用なだけの赤子のような。
ぼたぼたとこぼれる涙を拭う術もなく、彼女の頭のなかが整理されるのをひたすら待った。彼女が口にするのは謝罪ばかりで、僕に何もいえるはずもない。彼女の脳内ではただぐるぐると感情が渦をまいているのだろう。どちらも好きだというそれが、彼女にとってはどちらに対しても裏切りを見せる行為に見えるのだ。抱えこんだ痛みを馬鹿馬鹿しいと誰が思うだろうか。自意識過剰などという言葉で片づけられる程簡単なものではないのに。
…しばらく経って、ようやく彼女がゆっくりと顔をあげた。申し訳なさそうに赤くなった目元をこすり、ごめんなさいと呟いて目の前の冷めた紅茶をちょっとだけ飲み込む。はあ、とため息をついた顔が先ほどよりもましになっていたのを見てとって、僕は苦笑しながらねえハルさん、と問いかけた。
「上手くまとまりましたか」
「…よく分からないです」
「ねえ、ハルさん。君は実は、良い子だったんですね」
「…元気づけてくれてるんでしたら、ありがとうございます」
「クフフ」
わざとむくれたような表情になった彼女。元気が出てきたようだとくすり笑って、自分でも紅茶を少し口に入れる。
「最初はどうして僕に、と思ったのですが」
「…はい」
「そうですよね。彼らが君に秘密にするようなことでもない」
「ごめんなさい、骸さん」
また俯いてしまった彼女のつむじを見ながら、僕はぽつり、いう。
「綱吉くんから聞いたのでしょう?彼は君を大事にしすぎるきらいがある」
「…それはハルも思います」
「僕はかなり荒れましたから。君の姿に僕を重ねでもしたんでしょう」
わめいて怒鳴り散らし、彼を一発殴って逃走したという彼女など可愛いものだ。危うく同盟ファミリーのボスをひとりうしなうところだった彼からすれば、理由は分からないがここでとめておく必要があると思ったのだろう。…僕を利用しようとする、その小狡さは買っておくべきか。
「ハルさん、」
「…はい」
「僕はディーノが好きです。それから、綱吉くんも好きです。けれど、僕がディーノに向ける感情と、綱吉くんに向ける感情は全く違う」
「はい、」
「どちらの方がと優越を決めようとしてはいけません。どちらかを選ばなければいけないことなどなにもない」
ありきたりな言葉だった。きっと他の誰かからも聞いただろうこの言葉を、僕がいうことで彼女に伝わればいいと思った。苦しかった。訳もわからずあふれてくる涙を、ぬぐってくれたのは他でもないあの金色だった。だからきっと、ここから先は僕の役目ではない。そうでなくてはならない。
「…ハルは、ツナさんが好きです」
「ええ」
「でも、獄寺さんとは違います。ツナさんも獄寺さんも好きなんです」
「…ええ」
それを決めるのは最期の時だけでいいんですよと、少しだけ笑った彼女に微笑んだ。