※社会人な火黄
※捏造注意
「っあー! さみー!」
「お前最近それしか言わねぇな」
後ろでカチリと鍵を施錠した火神っちが、一足先に路上に出ていたオレの頭を眉をひそめてため息混じりにこつんとこづいた。未だ雪は積もっていないとはいえ、吐く息は白いし鼻も冷たい。ついでにオレが寒がりとくれば、この時期文句ばかりなのは大目に見て欲しいところ。
「だって寒いんスもん…! あっちも大概寒かったけどやっぱりこっちも寒いっスぅぅ」
「日本の方がかなりあったかくねぇか?」
「オレにとってのあったかい、は15度こえてからっス」
「ああ、そんなだから黒子のやつに脳内常春とか言われんだな」
「うるっさ! アンタこそ常夏の癖にっ」
いーっとして見せても火神っちは肩をすくめて「行こうぜ」と笑うばかりで、結局年末も年越しも新年までもこいつと一緒だったと思うとオレの青春がとてもかわいそうに思えてきた。こんないけ好かないやつとまた一年付き合ってかなきゃいけないんだろうなあめんどくさいなあ、まあそれを補って余りあるほど楽しくて嬉しいわけだけど。オレのオトメゴコロもかなり微妙なタイプであるから。
「歩いて行くの」
「まあ、そうだろ。バイクでもいいけど、出すか?」
「…ん、いい。歩いてこ」
火神っちのくせにオシャレな感じの私服に最初は少し居心地が悪かったけれど、一週間以上も一緒にいればもう見慣れたものになっている。だから振り向くその横顔がちょっとカッコよくて見とれてたなんて死んでもいってやりたくない。
八つ当たり気味に体当たりしてやったら、うまく不意打ちできたみたいで驚いた声で怒られて、オレの機嫌は少しよくなった。
「ざまみろバカガミー」
「…テメェなんで今罵った」
「オレがアンタを馬鹿にすんのに理由もタイミングもないっスよ」
「んな顔してもかわいくねぇから。むしろムカつくから」
「ひどっ! アンタオレの顔好きなくせに」
「…顔だけでいいのかよ」
「べっつに」
途中まで冗談って顔してたのに、オレがそういった途端ぴたりと足を止めた。ポケットに手を入れたままのオレをじっと見て、何かを窺ってるみたいな瞳。散々遊ばれてるくせに治らない、真っ直ぐな素直さ――…というより、治らないのはオレのこのひねくれてる性格なんだろうけど。
数歩歩いてオレも足をとめる。手を出して後ろに組んで、いつもみたいに笑いとばしてやりたくなった。でもなんていうか、新しいオレたちの始まりだから、オレも少しは真っ直ぐ素直になってやってもいいかな。オレとしてはいつも素直なつもりだけど。
「アンタがオレを好きっていうなら、それがどんなでもなんでも良いよ」
言ってから、これもちょっとひねてるかなと思った。でもオレにとっては、アンタの「好き」がそれくらい大事だってこと、ちゃんと伝えとくべきかもって感じて、なんて。
にへら、って笑ってやったら、火神っちもいつもの苦笑でいつもみたいにばか、って返してくれて、年が新しくなってもオレたちは全然変わらない、それがばかみたいに嬉しかった。先のことなんか分からないけど、たとえばこれが明日まで、明後日まで続きますようにって願うことは、年の初めには似つかわしいのかもしれない。
「今年も、アンタとずっと一緒にいられますように」
「…そういうのをカミサマにお願いすんじゃねえの?」
「アンタ以外に願ってどうすんスか。あと神様には違うのお願いするから」
「新年から随分贅沢なことだな」
「自分で贅沢言うな」
繋いだ手はさっきよりずっとあったかくて、寒がりのオレを繋ぎとめるこの手がオレのことを離しませんようにと、音にする代わりのキスにのせて呟いた。
始まりの朝に永遠の祈りを
(今年も火神っちがオレのワガママ聞いてくれますように!)
(聞こえてるしそれこそそっちに言ってどうすんだ)
(火神ダイスキ!)
(とってつけたように言うな黄色頭)