いつだって――そう、思い返してみればいつだって、あの子は隣にいてくれていた。だからきっとこれからもいてくれるんだろうと、ボクは漠然と思っていた。それがいけないことだなんて知らなかった。ボクにとってはあの子が安定剤で、あの子の優しさにつけこんでいたといわれればきっとそれまでだろうけど、とにかく、…とにかくボクは、あの子の側が一番安心するのに。…そんなこと、どう伝えようがあの子には届くはずもなかった。
「――ッ、いた、!」
ガタン、とボクの背中の重さを一身に受け止めたロッカーが悲鳴をあげる。弱弱しいといわれようが育ってしまった外見はどうしようもなく、けれど目の前でボクを睨みあげるちいさめな体を押し返すことはできなかった。
「…た、か」
「黙れ」
「っ、」
どうにか名前を呼ぼうとしたその声を、ボクを睨む――リアカーっ子、が、バチリと音がしそうなほどに両断した。ギリギリと掴まれている肩が痛い。怖い、けれど、そこまで怯えるようなことじゃなかった。だって相手がリアカーっ子だから。リアカーっ子は怒りっぽくて、そういうところは好きじゃなかったけど、それでも優しいリアカーっ子は、結局はボクの希望を受け入れてくれるから。そう思ってた。伝えたことも、伝わったと思ったことも、一度もないけど。
リアカーっ子のオレンジ色の瞳の奥のほうで、ボクには分からない感情が揺れていた。そこに踏み込む勇気はない、し、多分リアカーっ子はそれをボクには伝えてくれない。ボクはリアカーっ子で安心できるけれど、リアカーっ子はそうじゃない。食い違う何かを合わせることもできないまま、背中をつたう汗のぬるさにこくりと唾をのみこんだ。
「…オマエが何も言わないんだったら、オレだって何も分かんねぇよ」
言わないんじゃない。言っても無駄なだけだ。
リアカーっ子は自分自身の矛盾には気づかないまま、何も言わないボクの顔のすぐ横を思い切り殴りつけた。すさまじい音が響く。さすがに壁がへこむとかそんなマンガみたいなことは起こらなかったけど、きっとその内誰かはやってくるだろうそんな音。リアカーっ子は笑わない。それが今のボクにはとても悲しくて、寂しかった。
パスミスイーチアザー
(そんな顔、させたいわけじゃない)