彼の背中を見失いたくない、と思った。彼はこちらの視野を煙に巻くなんて回りくどいことをすることもなく、それこそ目の前からだって忽然と姿を消せる能力を持っていた。それは彼自身の影が薄いということもあっただろうけれど、それを意識的にやられてしまうとオレにはもうなす術なんてなかった。彼は消える。オレの目の前から。それはきっとオレが彼自身を拘束していようと適用される、彼の決死の思いからうまれるものなのだと思っていた。要するに彼は、オレといるのがつらいの、だ。きっと。キセキと呼ばれるオレたちは、5人揃ってこその世代だった。だから、キセキはそのまま持ち上がりなのだ。当然のこと。けれどオレたちが抜けた後の帝光は未だその猛威を弱めることもなく、他の中学のやつらのやる気や才能の芽や強さ、それ以上にもっと大切なものだって奪っていく。これからもずっと。それに、今やその先頭にたつオレたちのことを、彼がよく思うはずもなかった。彼は努力の人だ。努力できる、それこそが才能だった。目に見えないだけで、オレよりもオレたちよりもずっとずっと、あの人はすごい人なのに。


目の前をすぎる夜風が冷たい。
オレはもう、誰の背中を見ればいいのかも分からなかった。














(ボクに)
(甘えないでください)
(…すみません、黄瀬くん)





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