「ねえ。さみしいね?ハルちゃん」


その上から下まで真白なひとは、こつこつと靴の踵をならして私のそばまで近寄ってきました。拘束された手首をどうすることもできないので(というより私はどうする気もありませんでした)、唯一といえるほどの自由を持つ目で彼をちらりと見上げます。


「なにがですか?」

「君を見てるとね、君がすっごく滑稽に見えるよ」

「そうですか。ハルはなにも思いませんけど」

「ふふ、」


ほらそういうところ。楽しそうに笑う白い彼が私にはとても不愉快だったので、他の誰か(そう、例えばツナさんには絶対に)見せない感情をたっぷりとにじませた目、声で、にぶちんな彼を思いきり罵りました。


「ハル、あなたみたいなひとダイッキライです」

「ボクみたいな?」

「ひとの弱みを握って、それで脅して、なにもかも上手くいくって思ってるようなひと」

「ああうん、それはすごーく言い得て妙だね」

「…いったままですよ」


伸ばされた手が私に触れる前に、それにガリッとかみついてやりました。ちょっとだけびっくりしたみたいに目を見開いたそのひと(ざまあみろです)は、今度は心底楽しそうにあはは、と笑います。


「ハルちゃん、ハルちゃん。君ってほんとうに不幸だね」

「軽々しくハルの名前を呼ばないでください。…それに、」

「それに?」


私のかみ痕から滴った血をこれ見よがしに舐めながら、彼はやっぱり小馬鹿にした表情で私を見てきました。それにもう諦めに似た感情を抱きながら(このひとにはなにをいっても無駄です)、私はただこのひとを拒絶するためだけに言葉を紡ぎます。


「ハルが幸せかどうかを決めるのは、ハルだけですから」


(それがたとえこのひとの望む答えだとしても)

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