あるいはとかもしもだとか、いつもオレの隣にいる人間はそんな仮定の話を特に嫌っている。

彼曰くそんなものは希望的観測や単なる夢見がちなどではなく人事を尽くさなかったための言い訳だとかなんとか、ここまでで分かったことはオレの想い人は型破りなリアリストだというそれだけだ。右手にぴんくのうさちゃんキーホルダーを下げて言う台詞ではないことは確か。それでも彼が、これまた彼曰くの「人事」なるものを尽くしきっていることをオレは知っていて、だからこそそう言われてもそうだよねえと返すほかはないことも知っている。オレンジの夕暮れは、オレが立ったり座ったりする様子を影にうつして遊んでいるだけだった。


「じゃあさあ真ちゃん」

「なんだ」

「例えばさ、…えっと、例えば、それが言い訳じゃなかったとしたら、真ちゃんはなんて答えてくれるの」

「…質問の意味が分からないが」


からからとチャリを漕ぎながら、後方で丸くなっておしるこをすすっているのだろう背中にぶつかるようにだから、と声を投げた。


「だから…」


だから、例えばオレが、もしも――…もしもオレが帝光にいたら、オレは真ちゃんを支えてあげられたの、なんて。そんなこと言ったら、真ちゃんはどう返してくれるの。

それ以上の言葉はつなげられなかった。冗談にするには遅すぎて、でも本気にするにはまだオレの覚悟が足りなかった。チャリはただからからと前へ進む。オレがペダルを踏むその一歩一歩が、過去とかいうバケモノから真ちゃんをどんどん連れ出すちからになったらいいのに。あんなもの、今の真ちゃんには必要ない。…そこまで思って、無関係のくせに真ちゃんの過去に縛られているのはオレだと、オレは今更ながらに気がついた。


「…なんでもない、ごめんね真ちゃん」


からりとチャリが動きを止める。ブレーキをひいた手をハンドルから離すのが怖くて、それでも深く息をはきながらゆっくりと手を開いた。オレはなにに怯えているんだろう。それとも、何から逃げ出したいんだろう。

真ちゃんの家についたから、荷台は必然的に軽くなる。オレはこの空虚な今と一緒に家に帰ればいいだけなのだけど、今はそれがつらかった。何故だかは知らない。ただ、こんなにも弱っていると自覚するのは一番苦しかった。オレが弱くちゃ駄目だ。強くて弱い真ちゃんを支えるんだから、オレは弱くても強くなくちゃいけない。それだけは、オレにとって、つらいことじゃないから。


「…高尾」

「…またあした、」

「高尾」


真ちゃんの声は、鋭くオレの心に突き刺さってくる。それが心地よくてオレは真ちゃんが好きで、真ちゃんの声が好きで――でも、痛くて。

ぎり、と奥歯を噛み締めた。とっさに目の前に立つ真ちゃんの襟首をひっつかんで、思いっきり引き寄せて唇に触れた。真ちゃんの眼鏡がかちりと鳴る。声も目もふさいで「今」から逃れようとするオレを、真ちゃんはどうもしなかった。オレからあふれでる弱気や不安を全部飲み込んで、必死に彼をつなぎとめようとするオレを、笑うこともしなかった。



不安になった上にネガティブになっちゃった高尾さん、とか
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