料理を食べ終えて外に出る。会計のときには三人とも追い出されてしまったので値段も払い方もよく分からなかったが、他のふたりを見る限りいつもこうして黒子が金を払っているらしいことだけは分かった。何かコネがあるのか、それとも本当に払っているのか、…今聞くのはおそらく野暮というものだろう。
「あーお腹いっぱーい」
「お前オレのミートソース食いすぎだろマジで」
「まだいってんスか青峰っち…ごめんねっス、今度はオレの多めにあげるから」
「つーかそれより昨日買ったアレ、半分よこせよ」
「そういう魂胆スか!」
立場逆転で黄瀬が困ったような顔になる、じゃれあっているのを見ると子犬がふたりで取っ組み合っているような風景だった。といっても双方本気で相手に噛み付こうとしているわけじゃない。カワイイ、んだろうな、と素直に思えた。
店から黒子が出てきて、ふたりがまた子犬のようにまとわりつく。黒子は黄瀬といくつか言葉を交わしてから、ふたりを置いてオレの側まで近寄ってきた。黒子はいつでも無表情のままだと思っていたが、今は少しだけ微笑んでいる。
「火神くん、今日はありがとうございました」
「ん、いや…オレも結構楽しかった。こっちこそサンキュ」
「いえ。…あんなに楽しそうな黄瀬くんは久しぶりに見ました。さすが火神くんですね」
「…ンな褒めても何も出ねえぞ?」
にこり、今度は初めて黒子の笑顔を見た。こいつも笑うと愛嬌がある。
「ボクは青峰くんと少しだけ散歩をしてから帰ります。キミはどうしますか」
「あー…っと、黄瀬!」
少し離れた場所からさみしそうにオレたちを窺っていた片割れに手をあげて、「お前この後どうする」と形だけ聞いてみた。黄瀬はちょっとだけきょとんと首をかしげて、それからその整った顔を苦笑に変えてから「オレはもう帰るっス」と囁くように言った。青峰は何も言わない。それでいいのだろう、と思った。
「黄瀬も連れていかなくて大丈夫か?」
「はい。…というより、黄瀬くんが帰るといってますので、ボクにはそれ以上の権限はありません」
「そっか。じゃあ、オレは黄瀬を送ったら帰んな」
「分かりました。今日のことは、また後日お話しましょう」
「了解」
ふたりを手招きして、そういうことになったと一言だけで伝えた。そういえば青峰とは何も話していないとふと思いついて視線を合わせたら、あちらからも見ていたようでかなり強めの視線とバチリ、ぶつかった。オレが息を呑むと同時にそらされる。…なんだったんだなんて、聞ける余裕もない。
店の前で別れて、オレと黄瀬でまた「帝光中学校」までの道を歩き出した。その間交わした会話といえば「お前あそこに住んでんの」「ん、そう。青峰っちと、あと何人かも住んでるっスけど…ほとんどは自宅からスね」という当たり障りのない内容だけで、オレは結局つながれた手の温度があたたまったことくらいしか、黄瀬については何も分からないままだった。