バタンと唐突に開けられたドアの向こう、まだその先へ続くらしいその廊下から、きらきらとまぶしいばかりの男が満面の笑みでとびこんできた。格好が制服なだけに、ティーン向け学生モデルが雑誌からそのまま抜け出てきたかのような、男というよりは少年に見える。


「くろこーっち! 久しぶりっス!」

「お久しぶりです。といっても、先週も来たんですけどね」

「だあーってオレお相手中だったんスもーん。つまんない野郎の話よか、黒子っちと一緒にいたかったっス」

「それは仕方ありません。キミのお仕事ですから」

「むー、黒子っちのいじわるぅー。でもそこがスキっス!」

「ありがとうございます」


そいつは黒子にがばーっと抱きついたかと思うと、いきなり全力で黒子を抱きしめてぐりぐりと頬ずりをしだした。こいつをここまで好くやつがいるんだと、このときばかりはそちらに驚きが寄る。ええと、こいつがさっきいってた青峰、だろうか。そんな名前にしては茶金の髪がやたらと目に付くが。


「火神くん」

「ん? あ、お、おう」

「こちら、黄瀬くんです。今日のキミのお相手に」

「は」

「…どーぉも、黄瀬ですぅー。アンタ、名前は?」

「オレ? 火神、だけど」

「下の名前も」

「大我。火神大我」

「…フーン」


今しがた黄瀬だと紹介され、認識が黄瀬に上書きされたところで、黄瀬はぷいとそっぽを向いてまた黒子に構いだした。うっわあ、こいつ全くオレに興味なさそう。人に聞いておいて自分の名前は言わないし、これからどれだけこいつと一緒にいるのかは分からないが、こいつの気分次第だというならあっという間に終わりそうだと思った。それもそれで寂しい気はするが。

まあいいかととりあえず傍観を決め込んでみる。黒子はまとわりつく黄瀬をそこに座らせて、黄瀬の後ろ、ブレザーの制服を黄瀬よりも緩めに着た浅黒い肌の男の方に寄っていった。こいつが黄瀬なら、あいつが青峰なのだろう。黄瀬の勢いで意識を向け損ねていたが、青峰もどこか、嬉しそうな表情だった。黒子モテモテ疑惑。ただし、好意は全て男から。


「一週間ぶりですね、青峰くん」

「おう。…今週も来てくれるとは思ってなかった」

「そうですか? ボクは毎日でも会いたいって、毎週のようにいってると思いますけど」

「ん、…でも、うん。会えて嬉しいぜ、テツ」

「そうですね。ボクも嬉しいです」


指先だけ触れあいながらにこりと笑う。その表情がいつもの笑顔と違う気がして、オレは黒子のことなんか何も知らないに等しいくせに、それだけで黒子のやつ本気なんだなと思ってしまった。笑顔が起こす錯覚は暴力的。

黒子と青峰が話しているのを見ながら、視界の端で黄瀬を盗み見る。それがまた楽しそうで嬉しそうで、こいつらの関係ってものすごく不可思議だと思いながら「それで、」と現状を打破するための一言を発した。黒子が青峰を離さないままにオレを振り返る。


「オレはこっからどうすればいいわけ」

「ああ、そうですね…今回はお試しのようなものですし、ダブルデートで行きましょうか。桃井さん、それでも構いませんか?」

「もっちろん。テツくんのお願いだもん」

「ありがとうございます。火神くんもそれで?」

「分かった。…黄瀬がそれでいいっつうなら」


試しに会話を投げてみたら、黄瀬は黒子の方を向いたまま「オレも黒子っちと一緒がいいっス!」と周囲に花でも散りそうなほどの笑顔で答えた。お前その態度ってどうよと思わずツッコミたくなったが、その笑顔が不覚にもきれいだと思えたので、そのくらいのことは大したことには思えなかった。


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