駅前でちょっと早い夕飯を食べて、そこで少し話し込んだりして。今日は週末だったけれど黄瀬は珍しく休日に仕事をいれたみたいで、今日は泊まりに来るとは言わなかった。オレとしては(泊まりに関しては)どっちでもという気持ちなので、分かったと一言返しておく。それには残念そうに見えないと理不尽に拗ねられたけれど。

店を出て改札まで歩く。オレの使っている駅はそう大きくもなく、駅前には今入った軽食屋とATMがひとつ、それと郵便局があるくらいだ。どこにでもある小さな駅という感じ。自転車を置くスペースの端で、オレはいつものように足を止めた。


「じゃ、また来週な」

「うん…」

「…なんだよ。帰ったらすぐ電話して来いって」

「でも、…週末なのになって、思って」

「仕事じゃしょうがねえよ」


いつもの癖で黄瀬の頭に手をのせて、ぽんぽんとふたつくらい撫でてやる。黄瀬はむう、と目をつぶったまま文句をいうから、丸っきり犬のようにしか見えない。守ってあげたいとかいう女子の気持ちはよく分からないが、確かに、庇護欲とかをかきたてられる顔ではあると思う。どっちにしろ、養ってやってる感は否めないしな。


「…でも…火神っち、ちょっと」

「ん?」

「こっち。もちょっと影」


カバンを肩にひっかけて、もう行くのかと思ったら一緒に引っ張られた。自転車置き場の横にはすぐ小さなエレベーターがあって、ボタンを押したらすぐにドアが開かれる。どうやら一階にいたみたいだ。
もう終電も近いから周囲に人影はなく、引っ張られるままにエレベーターに乗った。


「黄瀬?」

「ん。火神っちももっとぎゅってして」

「…しょうがねえな」


乗った途端に抱きしめられて拘束された。覗きこんだ顔は今にもどうにかなってしまいそうで、こいつの寂しがりはどうすりゃ治るんだとため息をつきたくなった。そんなことをしてこいつを泣かせる気はないから、言われた通りに抱きしめるだけだけれど。こいつって何か、男の癖にいい匂いがする。


「…火神っちって、何かいい匂いするっスね」

「そうか? お前もするけど」

「え、そう?」

「おう。…あ、つか分かった。コレ、お前んとこのシャンプーの匂いだ」

「シャンプー? …あー!」


オレの首元ですんすんと鼻を鳴らしていた黄瀬が、何かを思い出して嬉しそうに笑った。そういえばうちのシャンプーは随分前に黄瀬が持ち込んだやつで、黄瀬は同じものを家でも使っているという。ふとした瞬間に気づくこともあるんだなとオレも笑ってしまった。

ぐりぐりと頭を押し付けていた黄瀬が不意に離れる。見ればオレンジ色の数字が2を表示していて、エレベーターはゆるりと動きを止めた。視線を戻すと同じタイミングでこちらを見た黄瀬と目が合って、にひひ、といたずらっ子のような笑顔でオレより先に小さな箱から出て行った。


「火神っちの匂い、オレ覚えたっス!」






あんまり他校っぽくならなかった…。充電の仕方はそれぞれってことで、火神っちは笑顔、黄瀬はぎゅーと匂い。
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