「む〜…えいっ」
狙いを定めて放ったボールは緩やかな弧を描き、ふわりと落下したかと思ったらそのまま大幅に狙いを外してリングにがちりと弾かれた。あーあと思って、立っていたフリースローラインから少し後ろにへたりこむ。
帝光のころ、ずっと見ていたあのシュートを思い出す。スリーポイント。フォームレスシュート。ただのレイアップひとつとったって、彼らのそれはとてもきれいだった。どうしてだかオレにはマネできない、彼らのキセキの輝き。
座り込んでゴールをぼーっと見つめてみた。あの小さなリングに、オレたちはずっと縛られていて。そしてそれよりももっと惹かれていて、いつしかオレはひとりであのリングに向き合っていた。その間に誰がいたって構うもんかと思う。この場所が、好きだと思った。
「黄瀬。もう鍵閉めんぞ」
「あ、センパイ。お疲れ様っス」
「ん。つーかオレ、テスト期間中は練習すんなって言わなかったか?」
「あっと、…そーでしたっ…け?」
「しらばっくれんなこのバカ!」
「いて、いてっス! スマッセン!!」
体育館の真ん中で、制服姿のセンパイと並んで立った。多分センパイはずっと前からオレに気づいてて、それでも声をかけないでいてくれたんだろう。センパイのことならよく分かる。それで、センパイのことをよく知ってるオレのことなんか、センパイは全部お見通しで。
「…ほら、手出せ」
「手? スか?」
「いーから」
言われたままに手を出したら、カバンを床に置いたセンパイがオレの後ろからぐいっと腕を持ち上げた。うおって声に出す間もなく、センパイが拾っていたらしいボールを持たされて、シュートのフォームを取らされた。
「セ、センパイ?」
「いいから。ロングシュート打ちたいんだろ? フォーム見てやる」
「センパイ…」
ほら、と腕を支えられて、さっきのより少し高めの構えができた。添えるほうの手も少し合わせてもらって、そのまま投げてみろ、とセンパイが数歩離れる。外すなよオレ、小さく呟いて真っ直ぐに放った。ボールはいつか見た彼らの軌跡のように、緩やかにリングに吸い込まれていった。
ちょっとプラス気味になってもた…笠黄における笠松先輩の包容力マジギネス級だと思います。