授業が終わるや否や「屋上行こうぜ、テツ」とご機嫌に誘われた。天気は快晴、気温もそこそこ、となれば青峰くんが屋上に行きたがるのは当然のことだったのだけど、生憎ボクには屋根のないところでご飯を食べる趣味はなかった。…けれど、今日の青峰くんがどこかとても嬉しそうだったので、ボクは自分でも珍しくそうしましょうかと素直に頷いていた。ご機嫌そうな青峰くんはそんなボクに少し驚いて、それからうん、と笑ってポケットに手を入れた。
屋上には他には生徒はいなかった。それもそのはずで、ドアに鍵がないとはいえ屋上は開放されているような場所ではない。来るのは物好きな生徒か、青峰くんのように屋上を好む少し偏った嗜好をもつ人間だ。彼は空が好きなのか空に近いところが好きなのかただ単に高いところが好きなのか、とにかく彼を見つけるならば真っ先に屋上に行くのが得策だった。
「テツ、飯何買った?」
「サンドイッチとあんぱんです」
「あれ、メロンパンは」
「売り切れでした。紫原くんも買っていないようでしたので、今日はあんぱんで妥協します」
「へえ。購買のあんぱんってつぶあんなんだよなーオレこしあんの方が好きだな。テツはどっち派?」
「そうですね、ボクもどちらかといえばこしあんの方が好きです」
「そっか」
同じだな、青峰くんが嬉しそうに笑う。
ふたりで貯水タンクの隣に座り込んで、ボクはパン、青峰くんはどこから持ってきたのかカップめんを出して、いただきますと手を合わせた。早速お箸を開けてカップめんを食べだす青峰くんを見て、バレないようにくすり、笑う。ご飯を食べる青峰くんを見るのは、ボクのひそかな楽しみでもあった。
そのまま少し話をした。それはどれも特筆するような内容ではなく、何気ない日常のこと、それから同じ学校に通う同士にしか通じないささやかなこと、そればかりだった。青峰くんがやけに楽しそうに話すものだから、ボクにまで伝染したような嬉しさがにじんだ。
「あ、」
「ん? どした、テツ」
「青峰くんのここ、たまごがついてます」
「げ、マジ? どこ。ここ?」
「違います、もうちょっとこっち」
不意に見えた黄色いかけらに自分の頬をさすと、青峰くんは箸を持ったまま自分の頬をぺたりと触った。それがかなり見当違いな場所だったので、なんだかもどかしくなってポケットからハンカチを出して手を伸ばした。かけらをとって、とんでいた汁を拭う。
「…はい、取れました」
「ん、わり。サンキュ」
「いえ。もっと落ち着いて食べてください」
「わはった」
注意した先から口にいっぱい入れてもふもふと食べている。全くと思ったけれど、そういう態度がボクは気に入っていて、カップから麺をすする速度は少し大人しくなっているのに気づいたから、もうそれでいいかとあんぱんにかじりついた。
青黒って照れないイメージ
このふたりの雰囲気も大好きです