帰って早々「一緒にお風呂はいろー」なんて馬鹿げたお願いをされた。一笑に付してやってもめげないのはここ数年(どころか思い返してみれば出会った当初からだ)で分かりきっていたので、そのまま脱衣所に入ってスライド式の扉の鍵をしっかりと閉めてやった。何やら騒いでいるが聞こえない、アレは一時的な幻聴だ。

服を適当に洗濯機に入れて、かけ湯をしてから疲労がまとわりつくような体を湯船につからせた。温かさがじんわりと染みていく。週末ということもあって、久しぶりにゆっくりとした気分になった。目を閉じる。


「真ちゃん湯船で寝ると危ないよ」

「っ!?」

「うわっ、ほら言ってるそばから!」


ざばりと水面が揺れる。突然耳元から降ってわいたような声に驚いて、オレは思わず壁に背がつくほど後ずさってしまった。滑りやすいはずの浴槽の中で安定を保っていられたのは掴まれたこの腕のおかげだけれど、驚きに高鳴る心臓は止められることはない。


「オマエ、なんで、ここにっ」

「え、だってお風呂一緒にはいろって言ったから」

「そういうこっちゃないのだよ!」

「ああ、鍵のこと? やだなー真ちゃん、オレを鍵くらいで締め出せると思ったら大間違いですよ」


にこにこと笑うその手には、何の変哲もないコインが握られていた。確かに鍵はツマミのようなタイプだからコインを使えば回せるだろうが、それを実行するとは思いもしないだろう。…いや、これは想像できなかった自分の落ち度か。

入浴剤を片手に鼻歌交じりで浴室に入ってくる男を呆れ半分で迎え入れる。ここまで来てしまったのなら仕方がない。


「あ、真ちゃん、眼鏡かけっぱ」


伸ばされた手が触れる前に、今度はオマエの驚いた顔を見てやらないとな。






真ちゃんのデレなんて高尾さんにはご褒美でしかありえないわけで
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