「あ」


財布のなかをいじくりまわして、ためこんでいたレシートをばらばらと床にまいた。部屋の主である雲雀さんがものすっごく嫌そうな顔をしているけれど、そんなことは無視である。オレの方が偉いんだから当たり前。


「雲雀さん雲雀さん」

「…何」

「雲雀さんって、マックとか行きます?」

「マック?」


自分で聞いておいて、雲雀さんが「マック」などという単語を発したことにオレはかなり驚いた。雲雀さんがマック。今も着物を適当に羽織るように着ている雲雀さんが。不似合いというか違和感すぎて笑うしかない。


「割引券みたいなのがたくさんあるんですけど」

「ジャンクフードは好きじゃない」

「ですよねえ」


そもそも和食ばっかり食べているひとなのだ。ジャンクフードどころかファミレスにだって行ったことがないに違いない。

とそこでひとつ、ん?と思って、オレはまた雲雀さんを二回続けて呼んだ。


「何」

「雲雀さんの好きな食べ物ってハンバーグですよね」

「…そうだけど」

「パンにハンバーグ挟まってる食べ物は好きじゃないんですか?」


ばさばさーとレシートの山に体を投げ出して(何やってんだっていいたげな視線は無視、以下同文)、膝の上で寝ているヒバードの頭を撫でだした雲雀さんを上目遣いで視界に入れる。イライラしてるくせにそれを我慢しようとしてるときの雲雀さんはとても綺麗だ。


「あんな、群れが多すぎる場所になんていられない」

「あー!群れかあ、群れね、なるほど」


ごろごろと転がってみる。雲雀さんの部屋の畳は草(名前は知らない)のいいにおいがして、生活感のかわりに生物感があふれている。縁側ではハリネズミが丸くなって座ってる。座布団を用意してあげてるあたり、雲雀さんはやっぱり小動物が好きらしい。


「雲雀さんは、」

「うん」

「小動物以外とは群れないんですよね」


イタリアと日本の往復のなかでもらった空港券の裏、マックの引換券がたくさん印刷されているのをぼんやりとながめた。元々コーヒーばっかりだったのを主に骸と獄寺くんから取り上げて色々レパートリーを増やしながら集めたやつ。雲雀さんと一緒に行こうとか可愛い(?)ことを考えたわけじゃなく、オレがマックが好きだからって理由で。


「…僕がそんな質だったら、今すぐ君を咬み殺して表に捨ててくるんだけど」

「あ、そうですか」

「草食動物のくせに、随分横柄になったね」

「あれ、でもそれってオレが小動物じゃないってことですか?」

「…僕の話を聞いてくれる?」

「やだなーちょっと照れますね、これ」


またものすごくウザそうな表情になった雲雀さんが、とうとうオレを無視してヒバードと一緒に横になった。座布団を枕にして寝転がった雲雀さんの隣に、寝ぼけてんだかよく分かんない状態でふらふらとヒバード(と、オレ)が転がり込む。

雲雀さんはまた嫌そうな顔をした、けれど、今度は何も言わなかった。今度も、何も言わなかった。




夕凪アラウディデ
(マイナスになるばっかりでした!)

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